酷暑3連休

 3連休だった。毎日35℃超えの、すさまじく暑い3連休なのだった。
 初日は午前中にポルガのスイミングスクールがあり、送りついでに見学した。しかしポルガはもう習い始めて数ヶ月が経過するというのに、一向に上達する気配がなく、見ていてもなんにもおもしろくない。しかも観覧席では、習っている子の弟や妹の幼児らがやかましく、プールという建物の設計ゆえにその声や音は反響して増幅し、とてもその場にいられなくなってしまった。最近とみに大きい音が苦手になってきていて、家でも仕事場でも常に着けられるタイプの耳栓の購入を考えているほどだ。またひとつ、僕の友達作りへの障害が生まれようとしている。
 帰宅して昼ごはんを済ませた後、ショッピングモールに出向いた。半月ほど前、出発してからやっぱり行かないことにしたショッピングモールだったが、今回はいよいよ機が熟した感じがあった。まず覗いたのはおもちゃ屋。これから始まる夏休みに向けて、子どもたちに与えるいい玩具はないかと店内をさまよった。店員に、「子どもたちだけで遊べて、夏休みじゅう飽きないで、喧嘩にもならないで、うるさくなくて、目が悪くならないで、知恵もつくおもちゃはないですか」と訊ねたくなった。もちろんそんなものは見つからず(いちど2000ピースくらいあるジグソーパズルを買いかけるが、寸でのところで嫌な予感が発動して取りやめた)、結果的にアイロンビーズというものに初めて手を出してみた。あの昔からある、粗いドット絵みたいなのを作るあれである。あまりにもドットが粗く、完成したものを見ても、なにをかたどったものであるか容易には判らず、受け手の想像力を暴力的なまでに求めてくるそれは、これまで「やる価値がないもの」として無視し続けてきたのだけど、藁にもすがる気持ちで試してみることにした。なるべく飽きられずに長く持てばいいと思う。もちろん間違いなく家じゅうにあの細かい輪っかのビーズが転がることになるのだろうが、レゴほど踏んだときのダメージは大きくないだろうと思う。そのあと300円ショップに行き、浮き輪などを買う。大人でも使えるきちんとしたサイズなのに300円。昔はこれを2000円とか3000円で売っていたのだから、そりゃあ世の中の景気は良かったわけだな、としみじみと思った。あとそのレジのとき、僕の前に並んだ客が、商品をひとつ出して、トレーに100円玉3つと10円玉ひとつを置いたので、ちょっとびっくりした。これが100円玉3つのみであれば、300円を税込と勘違いしたのだなと理解できるが、310円である。それは消費税3%の計算ではないか。もしかしてこの人タイムトラベラーか、と思った。それからユニクロにも立ち寄って、ずっと欲しいと思っていた「ベルサイユのばら」のTシャツを2枚買う。基本的にレディースなのだが、首が広いとか肩がしゃなんとなっているということはなく、男でも特に問題はなさそうな型だったので、買うことにした。しかも最初1500円だったものが、世間ウケしなかったようでもう500円になっている。500円って安売りカジュアルウェアショップの謎のTシャツよりも安いじゃないか。臙脂の、オスカルの軍服を模したデザインのものと、黒の「ベルサイユのばら」ロゴのものを買った。職場へはどうだろうな。後者は普通に着るが、前者はさすがにちょっと厳しいかな。最期に生鮮食品のスーパーに入って、夕飯の買い物。あっさりとネギトロ丼にしようとマグロのサクを買ったが、油断していて氷をもらい忘れ、屋外駐車場に停めていたサウナのような車に乗ってから「これはまずいぞ」となった。マグロのためにも自分たちのためにも冷房を全開にするが、いくら空気を冷まそうとしても陽射しが照りつけるのでぜんぜん涼しくならない。帰宅までは30分あまりも掛かるのである。これはさすがにまずいと判断を下し、途中にあったスーパーに駆け込んで、追加の刺身を買って氷をもらう。そして悲鳴を上げるマグロのサクもそこへ入れた。今にも熱射病で倒れそうになっていたマグロのサクが、なんとか意識を取り戻すイメージが見えた気がした。
 そんなわけで晩ごはんはネギトロ丼。大人のにはスライスした玉ねぎも使い、さっぱりとおいしく食べた。おいしかった。
 2日目はなんとプールに行った。去年にも一家で行った所。これまで子どもたちが、学校やら幼稚園やらスイミングスクールで「プール」と言うのを、家と会社とスーパーにしか行かない日々を過しながらとても恨めしく思っていた。その恨みをようやく晴らす時が来た。時が来たと言っても、もちろん一家で行ったのである。だから子どもの世話をしながらのプールである。じゃあこれは恨みを晴らしたことになったのかと問われると、いまいち確信が持てなくなる。これでひとりでナイトプールとかに繰り出していたら、迷いなくそうだと答えられるのだけど。直射日光を浴びながらのプールは、まあ気持ちよくはあったが、とは言え1時間が限界だった。ポルガは昨日スクールでも目の当たりにしたが、やっぱりぜんぜん泳げるようになっていなくて、月謝を払って通わせるのが、ほとほと嫌になった。たぶんこれは教室が悪いというより、ポルガが人の話を本当に聞かないのが原因だろうと思う。他人に指導をされて、できないことができるようになってゆく、という体験を味わわせるために教室に通わせている面もあるのだが、どうも性格的にその部分が壊滅的にできないらしい。これは今後に向けても本当に不安の募る部分である。夏が来ての約1年ぶりの水泳は、そんなわけでちょっと暗澹たる気持ちになって終了した。
 帰宅後に昼ごはん。スーパーに立ち寄って天ぷらを買ったので、天ざる。茹であがった麺を流水で冷やそうとするが、青いほうを捻っても、蛇口から出てくるのがわりとぬるめのお湯なのでどうしようもない。氷をいくら作っても追いつかない。
 そのあとは昼寝。35℃超えの屋外プールで泳いだあと、昼寝をしないなんてことがあるだろうか。あるらしい。わが家では、する派しない派が1対3の比率になった。こっちがマイノリティなのだった。信じられない。ひとりで倒れるように寝た。
 起きてから夕飯の準備。夕飯は餃子。3連休ではあるが皮から作ることはしない。それでも十分に美味しい。ホーム餃子はまず餃子というだけで基本的なポイントが高く、皮を手作りすることはそこからさらに点数を伸ばそうとする行為だが、しかしやったところでもうそこまで伸び代があるわけでもないと気付いた。それよりもインターバル短めに餃子を作ったほうが、トータルの幸福度数は高いと思う。
 夜は今日が初回の連続ドラマ「この世界の片隅に」を観た。広島が舞台の話で、ファルマンと方言の話になる。僕が「広島と岡山の方言の区別がつかない」と言ったら、ファルマンが「ぜんぜん違う!」と言って両者の違いを解説してくれるのだが、その解説が出雲弁でなされるものだから、いよいよ頭が混乱した。港北ニュータウンっ子にはレベルが高すぎた。
 そのあとはロシアワールドカップの決勝戦。フランス対クロアチア。なんとなく観ておくべきだろうと思ってチャンネルを合わせるが、かと言ってサッカーの試合を90分観続ける技能はない。途中で録画していた「西郷どん」を挟む。「西郷どん」は2度目の島流しが終わって、ここからようやく本格的な明治維新が始まっていくぞ、というところ。ほぼ半年が終了したタイミングなわけだが、じゃあ俺が観るのはここからでよかったんじゃないかな、と思った。「西郷どん」が終わってサッカーに戻したら、点数がやけにサクサク入り、結果的に4対2でフランスが優勝していた。そうか、と思った。
 3日目はもう特にすること、行く場所もなく、家でのんびりと過した。本当に特になんにもしなかった。休みは2日でいいのかもしれない。午前中に近所のスーパーで少し買い物をし、昼ごはんは炒飯と、昨日の餃子の残りでワンタンを作り、スープにした。
 明日からは僕はもちろん労働で、そして子どもたちはぽぽぽ、とフザけた登校をした後、もう夏休みに突入だ。40日あまりの連休だ。こいつらこれから40日間も家に居続けるのか、と思うと、ファルマンの悲観に同情の念が湧く。くじけず生き抜いてほしい。