逃げない2月

 金曜日が祝日というタイプの3連休であった。ポルガが学年末試験の直前であったり、ファルマンの上の妹一家が車検のために兵庫からこちらにやってきたりで、なんだかんだでバタバタし、あっという間に過ぎ去った感がある。
 初日は、初日はなにをしたのだっけ。ポルガを試験勉強のため図書館に送迎したり、そのついでにスーパーで買い物をしたりすると、わりとそれだけで午前中が終わったりして、ふわっと過ぎ去ったような気がする。午後、上の妹一家が実家に到着したので、家族はそちらに行き、ひとり残されたので、のびのびと自慰をしたのだが、天皇誕生日に自慰をするというのは、これは国民として真っ当なことなのか不敬なことなのか、判断が難しいところだな、などと思った。ちなみになのだが、やけに勢いよく飛び出た。現人神のなんかしらの力が作用したのだろうか。だとしたらすごい話だな。ものすごく直接的に国の繁栄に繋がるな。晩ごはんは、数日前から正統派のおいしい醤油ラーメンが食べたい気持ちが高まっていたので、そうしたのだが、万全を期して作ったのに、満足度としては80点に届かないくらいの出来で残念だった。
 2日目は、午後にまた家族が実家に行ったのだが、この日は自慰ではなく、逆に実家までランニングで行く、ということを実行した。なにが「逆に」なのかよく分からないけれど。我が家から実家までは、走って行こうと思えばぜんぜん可能だが、往復となるとちょっとしんどいな、という距離なので、今回のように向こうに既に家族が行っていて、帰りは車で帰れるという状況は絶好のチャンスなのだった。義妹一家に、さしあたって顔を合わす理由もないな、と思っていたけれど、それでもせっかく来ているのにまったく接触しないというのもな、という思いもあったので、そういう意味でもちょうどよかった。まあ正月に会ったばかりだし、春休みにはまたこちらに来るに違いないのだけど。もうすぐ2歳になる第二子が、ひたすらかわいらしかった。警告色のようなガチのランニングウエアで登場したので、ただでさえ人見知り時期のところ、完全に怖がられ、ぜんぜん抱っことかはできなかったけれど。晩ごはんは、鶏の手羽元を、クリスマスに好評だったローストレッグ風に味付けし、じゃが芋やかぼちゃと一緒にオーブンで焼いた。先週に引き続き、お前それ赤ワインが飲みたいだけじゃないか、というメニューなのだった。おいしかった。
 3日目は、子どもたちは実家やら図書館やらで、またその送迎で微妙にせわしなく過ぎた。ピイガはいとこと遊べることを喜びつつも、3連休の間に何度もプールをせがんできた。しかし先週の陽気はやはり奇蹟だったのであり、今週はきちんと2月下旬らしい寒さで、さらには花粉も飛び始めていてクシュンクシュンとやっているので、とても連れていける感じではなかった。でもそれだけまた行きたがるということは、先週のあれがよほど愉しかったのだろう。たしかに本当によかった。人生の歓びとはこういう時間のことを言うのかもしれない、とさえ思った。なので午後にこそっと僕ひとりだけで泳ぎに行った。ピイガに知られると絶対にめちゃくちゃキレられるので、隠している。先週もピイガには子ども用プールで遊んでてもらい、その間に何百メートルかきちんと泳いだが、今週はひとりでがっつりと泳ぐ。せっかくだからということで1キロ泳いだ。ランニングするし泳ぐし、ずいぶん活発な奴だな。晩ごはんは、ファルマンに前日にリクエストを訊ねたら、「手巻きずし」という子どものような答えが返ってきたので、そうした。刺身もおいしかったが、毎度のことながら卵焼きやたらこマヨといったあたりが、くらくらするほどおいしい。でもそれだけだときっとそこまでおいしくないんだよな。なんだろ、刺身の匂いかな。刺身の匂いを嗅ぎながら食べることで、やけにおいしく感じられるのかもしれない。
 まあそんなような3連休で、大きなイベントはなかったが、のんびりと平和に過した。2月は逃げるなどと言われるわりに、意外と長いような気がしている。こちらが短いハードルを高め過ぎたのかもしれない。評判ほどじゃないよね。ちょっと調子に乗ってるよね。

山陰の2月なのに晴れた週末

 2月の山陰とはとても思えない、晴れやかで温暖な週末だった。もちろんこれは期間限定のもので、週明けからは気温が下がり、さらには荒れるという予報である。であればこそ、この2日間の尊さが際立つというものだ。結果的に、こうしちゃいられない衝動に突き動かされた2日間となった。
 土曜日は午後から一家で公園へと繰り出した。公園を目的地としたのはいつ以来だろうか。去年の秋は、なんだかんだでそういうことをしなかったような気がする。行ったのは平田にある愛宕山公園。図書館にも行きたかったのでその選択となった。前回に行ったのがもうだいぶ前で、シカやヒツジやヤギが飼育されているということ以外、ほとんど覚えていなかった。遊具はそれほどでもなかったはず、と思っていたが、行ってみたらたしかにそれほどでもなかった。そもそもがだいぶ小さい子向けで、中学1年生と小学4年生は明らかに対象ではなかった(それでもポルガはぜんぜん気にせず遊んだ。さすがだ)。しかし名前にあるように山に作られた公園なので、案内に従って進むと展望台に辿り着き、そこからの景色がとてもよかった。晴れて暖かいだけでなく、空気がとても澄んでいたのだ。本当にいいコンディションの日だったのだ。東のほうに視線をやると、遠くに雪を被った山があり、どうやらそれは大山であるらしかった。三瓶山にしろ大山にしろ、なるほど名のある山というのは見事な見た目をしているものだな、と思った。とてもいい散歩になった。そのあとは図書館に寄り、さらには平田に来たあともうひとつの理由である、先月くらいにオープンしたダイレックスにも寄った。平田にダイレックスができたとは聞いたが、いったいどのあたりにできたのかと思っていたら、なんのことはない、図書館の本当にすぐ近くだった。まだオープニングセールを継続していて、肉がとても安く、喜んで買い込んだ。ほくほくと、すばらしい平田行きであった。
 晩ごはんは鶏の唐揚げ。ポルガが翌日、お弁当行事なので、そのおかずのためのメニューである。今週から週末限定とした酒がおいしかった。ちょっと久しぶりのビールに体が驚いたのか、喉の奥や胃のあたりから変な音が出た。
 翌日も同じような天候で、ポルガは科学教室の課外活動で、貸し切りバスに乗って遠出だという。うらやましい。もうこの陽気の中、貸し切りバスで移動するというだけで、成功は確約されていると言ってもいい。帰りは夕方ということで、姉ひとりが愉しそうなイベントに参加し、取り残されたピイガがあまりにも不憫になる。そこで前から存在は知っていて、でもなんとなく足が向かずにいた、実は車で30分足らずで行ける屋内温水プールに、とうとう行くことにした。ファルマンは仕事を抱えていたが、初めてのプールでピイガを更衣室でひとりにするのは心配だということで、仕事道具を持って付いてきてくれた。今は休館している行きつけのプールが、ありがたいことにとても近所にあるため、やけに遠いように感じていたが、まあ車で25分くらいなので、実は倉敷時代に児島のプールに行くよりも近いのだ。倉敷時代は、どこへ行くにも30分以上の移動は当たり前だった。今はコンパクトシティ(もとい、栄えているエリアがほぼ1箇所しかない)に暮しているので、感覚がちょっと変わっている。初めて行ったプールは、ファルマンも子どもの頃に何度か行ったという場所で、しかしどうやら近年に改装がなされたようで、とても新しげできれいだった。窓から陽光がたっぷりと降り注ぎ、もちろん空いていて、非常に良かった。プールからガラスを隔てて見学席があり、好都合なことにそこにはテーブルもあったので、ファルマンは快適に仕事ができたという。ピイガは久しぶりのプールにはしゃいでいて、連れてきてよかったと思った。僕もピイガの相手をする合間に、25mのプールできちんと泳ぐということができたので大満足だった。やっぱり50mや100mをしっかり泳ぐと気持ちがいいな。通勤の方向とは残念ながらぜんぜん違うのだが、向こうのプールはまだまだ再開しないので、必要を感じたらまた来ようと思った。
 そんな感じで、2日間とも陽の光を存分に浴びて、山陰の冬で溜めた鬱屈がだいぶ癒された週末であった。まあ実際、冬はもう虫の息と言っていい。しかし虫の息と言うと、春のほうがよほど虫の息吹をイメージさせるため、ちょっとややこしいことになる。

久々連休

 1月は前半に休みを大量消費してしまい、その帳尻合わせのように後半は出勤の土曜日ばかりが続いていた。たぶんこれは、完全週休二日制じゃない会社あるあるだろう。だからとても久しぶりの3連休に、テンションは高かった。
 そのようなわけで、初日には行かねばならぬという使命感から、おろち湯ったり館へと繰り出した。前回、日中に行ったらプールに人が多いしサウナはまだ熱くないしで微妙だったので、やはり夕方から夜にかけてがいいだろうということで、温め直せばいいように晩ごはんを作っておき、ひとり17時くらいから雲南へと車を走らせた。2月ながら、道の心配はまるでない。つまり暖冬だったかと言われると、普通に寒かったわ! と反論したくもなるが、やはり雪は少ない冬だった。しかしいつに降ったものか、湯ったり館の駐車場の一角には、雪が集められ積まれていたので驚いた。
 晩ごはんどきに差し掛かった湯ったり館はもう混雑のピークを超えているだろうと目論んでいたのだが、中に入ると意外と人が多かった。多かったと言っても、もちろん横浜の実家近くのスーパー銭湯のような、ギャグマンガ日和のようなレベルではぜんぜんないのだけど、空いているだろうと当て込んでいたので、ちょっとショックだった。サウナ内での常連客同士の会話によると、どうやら今年の冬から冬時間営業というものが制定され、閉館時間が1時間前倒しになっているため、それで人が多いのだということだった。「ほんにろくなことせん」とその常連客はぼやいていた。その人は、何ヶ月かにいちどくらいしか来ていない僕が、それでも顔を覚えているような、おそらく毎晩ここで風呂に入っている人なので、人生の調和が崩れたほどの出来事なのだろう。でもサウナはしっかり熱かったし、男湯が広いほうの週だったしで、まあまあよかった。2階にはもちろん上がれないのだけど、1階の露天の脇のベンチで外気浴をしていたら、冬の山陰名物の、降るとも降らないともない霧雨のようなものが降ってきて、それを全裸で浴びるのもまた悪くなかった。
 しかし今回のおろち湯ったり館の主目的は、なんと言ってもプールなのだ。なぜならホームプールが冬の休館および、今年はそれに併せて大規模な改修工事も行なうということで、春まで閉まっているのである。そのため実はもう既にしばらく泳げていないし、今後もまだだいぶ水泳になかなかありつけなそうな情勢なのである。普段は、25mよりも短い湯ったり館のプールには、こちらはこちらで独自の魅力もありつつ、しかし泳ぐという行為そのものに格別な感動というものはないのだが、今回はそんな事情なので、なんてったって久しぶりに泳げるというのがとにかく嬉しかった。やっぱり泳ぐと、泳ぐことでしか得られない刺激が体に来て、気持ちがよかった。
 そんなわけでわりとしっかりと堪能できた、今回の湯ったり館であった。やっぱり夜だな。次に行くのは3月中旬から下旬頃か。2階の閉鎖が終わり、そして桜が咲き始めるような、そんな頃に行けたらいい。
 帰宅して、ひとり遅めの晩ごはん。メニューは野菜とソーセージのトマト煮と、合い挽き肉をたっぷり入れたオムレツ。もう完全に赤ワインに照準を合わせたメニューじゃないか。そのとき傾倒している酒に合わせて、作る料理というのは変化するようだ。サウナのあとの満腹と酩酊で、3連休の初日にふさわしい、よい心地の夜だった。
 2日目の朝、ポルガが風邪を発症する。連休中なので病院に行きづらく、どうしたものかと危ぶんだが、いまこの日記を書いている3日目の晩の時点でだいぶ回復し、普通のごはんを食べているので、コロナでもインフルでもなかったようである。それ自体はもちろんよかったのだが、なんてったってポルガは普段の生活態度があまりにも悪い(夜更かし・薄着・部屋がゴミ屋敷のよう)ので、体を壊すのもなるべくしてなった感があり、今後は少しでも悪行を改めてほしいと切に思う。切に思うのだが、中学生ってマジで言うことを聞かないし反省もしないので、始末に負えない。
 ポルガがずっと部屋で寝転がっていたこの日、他の人間はどう過したかと言えば、ファルマンは仕事とポルガの世話をし、僕とピイガはクッキーを焼いていた。今年はなぜか急に、この3連休というものはバレンタインのお菓子を作るのに最適なタイミングなのだなあということを思い、クッキーを焼くことにしたのだった。たぶんこれは、バレンタインは女から男へチョコを捧げるもの、という固定観念が、現代の時流に合わせて、僕の中でやんわりと破壊されたということだろう。おっさんのパンツがなんだっていいのだ。
 せっかく作るのだから、きちんとおいしいものをいい感じに作りたいと思い、実はこの半月ほどせっせと準備していた。クッキーの型や包装、アイシングの材料などを取り揃え、平日の夜に試作で焼いてみたりして、ファルマンを慄かせたりした。その果以もあり、なかなか満足いくものができた。


 これはごく一部で、バターは丸々ひとパック、200gを使うような分量で、オーブンで4回に分けて焼くほど焼いた。アイシングは100均のものに加えて、粉糖と着色料で手作りもし、8色ほど作った。ピイガはイラストを描くように、なかなか上手にやっていた。僕はいざやってみたら、アイデアがなにも浮かばず、ヒット君型クッキーに顔ばかりを描いた。ヒット君型は、オリジナルのクッキー型ってどうやって作ればいいんだろうと検索し、牛乳パックで作ればよいのだという知見を得て、実行したものである。なかなかかわいらしい、商売っ気のある、と言うかこういう人のキャラクターの形のクッキーって既に世の中にいくらでもあるよな、という感じのものができた。
 食べたら普通においしい。クッキー自体の甘さは控えめで、アイシングでちょうどいい具合になった。アイシングは、アイデアもさることながら、絞り袋が途中でぐじゃぐじゃになったり、思うような線が描けなかったりで、少し悔しさが残った。でもこれは、やればやるほどどんどん手慣れるタイプのやつだな、という感触を得たので、また1年後と言わず、気が向いたらやりたいと思う。
 翌日、袋に詰めたものを実家の面々に渡し、さらには横浜へも宅配便で送った。人にあげるのは、本当にそれだけである。冷静に考えると、なんとまあ他者と交流しない一家なのか。つながりというものが、あまりにもない。いやまあ、多少つながっている程度の人から手作りクッキー(それもアイシング掛け)をもらっても、絶対に食べないけどさ。
 3連休はまあそんな、おろち湯ったり館とクッキー作りがメインで、あとはいつも通り、ミシンをしたり筋トレをしたり、酒を飲んだりして過した。久々の連休を十全に堪能できたかと訊かれると、それに対して自信満々にイエスと答えられるのはいったいどんな人間だ、と問い返したくもなるが、ずっとしなきゃいけないと思っていた布置きエリアの掃除もできたし、まあそこまで悪くなかったんじゃないかと思う。連休明けからは春らしさが出てくるという噂もあり、愉しみにしている。前途が愉しみだなんて、すばらしいじゃないか。いや、それはつまり今現在を憂えているということだから、もしかしたらぜんぜんすばらしくないのかもしれない。とにかく早く寒くなくなってほしい。