高所作業車とサヒメル

 土曜日はまず、山にごみを棄てに行った。人聞きが悪い。ちゃんと、市の正規の手段のやつだ。山の中にある、持ち込みの出来る集積場に、模様替えによって出たものや、期せずしてそのあと発生した故障電化製品などを車に積み、持って行った次第である。入口ゲートで車の重さを計り、場内で係員の指示に従って積み荷を降ろしたのち、出口ゲートで再び重さを計り、軽くなった分の重量、すなわち廃棄した物品の重さ分だけ、代金を払うシステム。100円くらいだった。岡山からの引っ越しの際にもこういう施設を利用したが、いちどやると、300円なり500円なりの粗大ごみ券を買って取りに来てもらうのが、すごく馬鹿らしくなる。棄てるものたちは、模様替えから今日まで、仕方なく廊下の端に置きっ放しになっていたので、それがなくなってとてもすっきりした。家電がダメになったタイミングも実によかった。
 ごみを降ろしたあとは、軽くなった車で多伎へと向かう。この日に、多伎図書館において貸出期間を過ぎた書籍や雑誌の無料配布が行なわれるという告知を目にし、ぜひ来ようと思っていたのだった。行ったところ、2年くらい前のものだが、ポルガの好きな「るるぶ」や、僕の期待していた「Tarzan」などが箱の中にあったため、ホクホクしながらもらう。普段、図書館で本を借りて読むだけで、だいぶ得した気持ちになっているが、もらい受けるなんて丸儲けだな、と思う。図書館はそれだけの予定だったが、図書館と併設する多伎のコミュニティセンターでは、ちょうど多伎町の催し物が行なわれていて、町民の絵画や写真、手芸や習字などの作品が展示されていたり、交通安全の啓蒙キャンペーンなんかが繰り広げられていた。もっとも先週の出雲ドームのイベントに較べて、とても小規模でこじんまりとしたものである。しかしその中に、「高所作業車体験」というコーナーがあり、駐車場の一画に停められた高所作業車のバスケット部分に乗り込み、アームを伸ばしてもらい、その高さを体験できる、というもので、待ち時間なく乗れるようだったので、ファルマンには撮影係を依頼し、僕と子どもたちの3人で乗ることにした。これまで明確に高所作業車に憧れを持ったことはなかったが、滅多にできない体験であることは間違いない。ぜんぜん知らないで来たが、これはいい時に来たなあと喜びを感じた。しかしそんな気持ちを抱いたのはアームが伸びはじめて5秒目くらいまでのことで、だんだん視界が高くなるにつれ、そういえば自分が極度の高所恐怖症であるということが思い出され、去年の夏に日御碕灯台に行った際も、長い階段を昇った末に、てっぺん付近にある展望テラスに出られるようになっているのを、僕だけが恐怖のあまり一歩も外に出られなかった、という出来事があったが、それなのになぜかいつも、むしろ率先して、高い所に行く企画に参加してしまう。参加して、少し日常から逸脱した高さを感じると、すぐに足が竦んで猛烈な後悔の念を抱く。今回もまさにそうだった。多伎なので、海のすぐそばである。急な浜風が吹くやもしれないじゃないか。そういう安全対策を、果してこの企画は想定しているのだろうか、などと不安に駆られる。子どもたちはまるで平気そうで、ああこの娘たちには生命にとってとても大事ななにかが欠落している、と思う。実際、アームが高くなるにつれ、わりと風で揺れるのだ。とても立ってられず、しゃがんでしまう。あとからファルマンに、「ひとりしゃがんでたけど、あれってどういう意味? 落ちたときしゃがんでると意味あるの?」と半笑いで指摘された。「ここがてっぺんです」と操縦者の人がいい、ああこれでやっと地上に降りれる、と安心したら、「じゃあここで360度回転しますね」と悪魔みたいなことをいいだし、嘘だろ、もう伸びきった時点でアームの限界は超えてるだろ、酷使させすぎだろ、浜風なめんなよ、ポキッと折れるぞ、と思うものの声も出せず、しゃがみこんで震えながら、さらにゆっくり回転するという、地獄のような時間を過した。


 いや、怖いって。マジで。これがゆらーり揺れるのだ。怖すぎるだろ。今後、街で高所作業車を見かけたら、作業をしている人に心の底からの敬意を示そうと思った。
 明けて今日は、天気が悪いという予報もあったので、家でのんびりする予定だったのだが、蓋を開けてみたら晴天で、あれ?となる。雨だから行けないねと、週間予報を見て諦めていた、三瓶山のサヒメル行きが、にわかに息を吹き返す。サヒメルでは現在、ポケモンと化石の特別展をやっていて、うちの子、特にピイガはいま、ポケモンにだいぶハマっていて、せっかくの機会なので連れて行ってやろうとは思っていたのだが、期間は来年の1月までと長いので、慌てて今日行かなくてもいいのだが、しかし行こうと思えば行けるなあと悩み、ホームページなどを眺めていたら、ススキで作った迷路という催しが、これはもう季節的に今週末で終わるようで、じゃあもう行っとくしかないか、となって行った。三瓶山およびサヒメルは、先日の国営備北丘陵公園と同じで、第一次島根移住の際に行ったことがある。向こうは8年ぶりだったが、こちらは2012年11月のことなので、なんと9年ぶりだ。ポルガ1歳。まだピイガもお腹にいなく、完全にひとりっ子の時代である。その頃に較べてポルガは、体は大きくなったが、中身はまったく変わっていないような気がする。9年ぶりの道のりは、すっかり忘れていたが、やはり山なのでなかなかのもので、「凍結注意」の看板も多数あり、1月まで特別展をやっているから焦る必要ないな、などと甘く見ていたが、今のうちに行っといて本当によかった、と思った。ススキのおかげだ。
 行くまでの道はとても空いていて、サヒメルに行く人間なんてわが家くらいなのかな、と思ったが、到着してみたら駐車場は満車で、臨時駐車場に停めなければならなかった。不思議だな。どうしてあんなに道は空いていたんだろう。下から登ってきたのはわが家くらいで、あとはみな、天上から降りてきた方々だったのかな。館内も人が多く、これはこれは、と思ったが、入館料を払ってちゃんと中に入ってみると、人が本当に多いのは館内入ってすぐのポケモンの特別展の物販コーナーだけだ、ということに気づいた。それ以外の場所は、そこそこの感じだった。
 肝心の、というわけでもないが、ポケモンの特別展は、別におもしろくないというか、現実の古生物と、ポケモン世界の古生物(かせきポケモン)の比較をしていて、これを子どもが見たら現実と創作が混乱するのではないかと思った。それよりも普通の展示のほうがおもしろかった。9年前からリニューアルしている部分も多くあるようで、「これが危険生物だ!」という煽りで中を覗くと顔の写真を撮られ、地球にとっていちばんの危険生物はあなたを含む人間なんだよ、といわれる、あの気分の悪いコーナーはなくなっていて、体験型のクイズコーナーになっていて、けっこう愉しめた。館内をひと通り巡ったあと、物販コーナーでピイガにねだられ、発掘ピカチュウのぬいぐるみを買わされる。2300円。高い。いうまでもなく、ぼってる。キャラクターはつええな、としみじみと思う。2300円……。
 そのあとは臨時駐車場に戻り、野原でお弁当を食べたり、ススキの迷路をしたり、キャンプ場のほうへ行ってアスレチックをしたりした(9年前が思い出されて懐かしかった)。そしてこれもまた備北丘陵公園と同じで、前回はとてもアスレチックどころではなかった(ひとりは存在さえしていなかった)子どもは、今回スイスイとアスレチックをこなし、そして前回は子どもの代わりにアスレチックをしたり、それなりに体を張った親は、すっかり体が重たくなっていた。親は9年が経過したことによって、自然を愛でる心が強まったようで、ほのかに色づく三瓶山を仰いで、ほーう、と感じ入ったりした。もうすっかりそっち側だ。山野草とか愛でたい。
 

 そんな感じの9年ぶり三瓶山およびサヒメルだった。返す返すも、秋のうちに行っておいてよかった。