これまで岡山でひとりで暮していたファルマンの下の妹(三女)が、このたび島根の実家に帰還することとなり、今日はその引っ越し準備の手伝いに赴いた。
三女の住まいは我が家から車で30分ほど、鉄道で言えば5駅の距離にあり、今となってはもっと密に絡んでもよかったような気もするが、ほどほどに近くに住んでいたらそれはそれであまり接触しないものらしく、3年あまりの三女の岡山生活の中で、向こうの住まいにお邪魔したのは今日を入れて5回程度だった。
以前、我々が島根、三女が香川に住んでいた時期にも、三女の香川県内での引っ越し作業というものを手伝ったことがあり、その際は本当に引っ越しが決行されるタイミングで、その前日の大詰めの作業から行なったのだった。そのときは、前日でありながらあまりの「日常の生活が送れてる」具合に頭がクラクラし、なんとか間に合わせるためにくたくたになったものだが、今回に関しては実際の引っ越しの2週間あまりも前での手伝いのため、気が楽だった。しかしかつて前日にあんな有様を見せた三女は、もしかしたら2週間前の段階で段ボールの手配さえできていないのではないかと危惧したが、さすがにそんなことはなく、玄関を入ってすぐの廊下に、パンダのキャラクターが印刷された段ボールの束が鎮座していた(受け取った状態で鎮座しているだけではあった)。
というわけで梱包を始める。ファルマンが張り切っていた。ファルマンは現在の我々の住まいで、実家以来ずいぶん久しぶりにひとつ所に2年以上住んだ、というほどの引っ越しジャンキーであり、近ごろなど悪い虫が騒ぎ出し、引っ越し欲求が高まっていたところだったので、この梱包作業でいくらかはその衝動が収まってくれたのではないかと思う。
僕は立場上、あまりプライベートな小物を梱包していく作業はどうなんだという気がしたので、動きあぐね、三女になにをすればいいか訊ねたところ、押入れに入れてある冬用タイヤを駐車場に降ろすだとか、ソファーを集積場まで運ぶとか、力仕事を求められたので、そんなことってあるのか、まだこの世に僕に力仕事を頼む人間が生き残っていたのか、と思った。でもがんばってやった。やったあとは予想通りそれだけで疲弊し、あとはほとんどコタツに入ってテレビを観たり、三女の住まいに来るのはきっとこれが最後になるので(引っ越しは平日に行なわれるため参加しない)、思い出として写真を撮ったり、作業において邪魔でしかない子どもたちを連れ出して近所の公園に遊びに行ったり(粉雪が舞うほどに寒かった)、そんな風にして過した。
その間にファルマンはバカスカと段ボールを作っていた。引っ越しまではまだ2週間もあるのに、家にあるほとんどのタオルを箱に詰めてしまうくらい、見境をなくしていた。引っ越し梱包ハイ。普段の生活で、ファルマンほどの面倒くさがりはいないと僕は常々感じているのだが、こういうときのパッションを希釈して日常生活のほうに回すことはできないのだろうかと思う。まあできるはずもないのだけど。
昼過ぎから夕方まで滞在し、そんなわけでそれなりに働いた。もっとも話を聞けば、なんのことはない、引っ越しまで2週間あまりあるのに対し、三女のこちらでの勤めはあと数日で終わるのだそうで(いいなあ!)、本人がいくらでも作業できるのである。まあそうなったらそうなったで意外と作業は遅々としてと進まない(というよりも直前までやる気にならない)、というのも自明の理なので、こうして梱包ハイの長姉一家が訪れ、まだわりと必要だったものまで箱に詰められるくらいの嵐に見舞われたのは、三女にとってよかったに違いない、と勝手に結論づけた。慣れない力仕事をして大いに疲れた。