安息春週末

 土曜日は花見を敢行した。今週はウィークデイがずっと寒く、島根行きで崩した体調がなかなか改善せず、プールにも行けない冴えない数日だったが、体の具合も気候も週末に一気に帳尻を合わせてきた。昨日からの暖かさで、桜も満開とまではいかないが、言う人によっては「これくらいがいちばんいいんだよ」と言いそうな程度には咲き揃った。1年でこの日がいちばん花見に適した日であることはまず間違いなく、だとしたら場所のセレクトはとても大事だと考え、思案の挙句に山のほうにある公園を選んだ。これまで2度ほど行ったことのある公園だが、桜の時期に行くのは初めて。桜の時期に行っていないので認識していなかったが、ウェブで情報を見たら実は桜の木が多く、いい花見スポットなのらしい。またわが家の場合、花より団子ならぬ花より公園の要素も大きいので、そういう意味でもちょうどいいと思った。しかし行ったところ、普段は休日でもガラガラの駐車場が満杯で、特別に停めてもいいらしい園内の道にも縦列駐車で隙間なく車が連なっていた。自分がまだ子供だった頃、横浜でこういう類の経験をしたことはあるが、大人になり、地方に住むようになってからは初めてで、なんだか驚いた。でも車を停めることができない状況で横目に眺める園内は、それはもう桜がダイナミックに咲いていて、まあこれは誰もが今日ここに来るよなあと思った。そうしてしばらく園内をさまよい、だいぶ山からも降りる形になったところで、ようやく空きのある駐車場にたどり着いた。たぶん1年でこの時期にしか使われない駐車場。車窓からの桜があまりにも見事だったので、降りられずにそのまま下山ということにならなくて本当によかったと思った。そして待望の花見にありつく。駐車場は大変な有様だったが、園内は面積が広大なため、そこまで人に溢れ返っているということはなかった。シートを敷き、お弁当を食べる。山肌に幾重にも咲き連なる桜はすごくよかった。食後は子どもたち待望のアスレチックエリアへ。これがなにしろ山肌に作られているので、わざわざアスレチックになど挑まずとも、大人にとっては子どもについていくだけで十分にアスレチックだった。登りの斜面は、ただの坂の部分と、階段になっている部分があり、親切にもどちらも味わうことができ、その結果、どちらにもそれぞれのつらさがある、と思った。ファルマンにそう話したら、「坂は腰、階段は膝」と、さすがはつらさの大家だな、という含蓄のある言葉が返ってきた。挙句の果てには、広めの間隔の階段の、段と段の間が坂になっているというハイブリット型まで現れ、この容赦ない苦しませっぷりは、ここはもしかしてプチサイズの地獄なのではないかと思った。それでも大人の花見欲と子どもの公園欲が十全に満たされたので、場所の選択は正解だったろうと思った。弁当からアスレチックまで、園内で撮った写真の全てに桜の木が写り込んでいた。そのくらいに咲いていた。花見はこうでないと。
 帰宅するとファルマンはよほど疲弊したのか、少し寝ていた。僕は寝なかった。これまでと逆である。体力減退の構図が、この1ヶ月半で完全に逆転したのを感じる。3月の僕はやけに健康で、プールに行って、たんぱく質を意識的に摂って、そして酒を飲まなかった。それがこの1週間の体調不良で少しトーンダウンしてしまったが、週明けからまたプール通いの日々は再開する予定だ。やっぱり30代半ばともなると、意識的にその地点にとどまろうと励まないと、取り返しのつかないことになるような気がする。
 そんな流れで言うのも何だが、この日は3日(水曜日)に祝えなかったファルマンの36歳の誕生日祝いなのだった。ケーキは、ショートケーキはさすがに飽きたということで、リクエストによりレアチーズケーキを作った。初めてだったが、焼くわけでもないのでとても簡単だった。クリームチーズやら生クリームやらサワークリームやら、レシピの通りに買ってきたものを、レシピの通りに混ぜ合わせて、型に入れて冷やしただけなので、これは果たして僕による調理なのだろうか、とさえ思った。晩ごはんのリクエストは「炊き込みごはん」で、スーパーで見たらレトルトの筍のやつが美味しそうだったのでそれでいいやとなり、すさまじく楽だった。あとは鶏肉を焼いたりお吸い物を作ったりした。ファルマンは炊き込みご飯を3杯食べた。ちなみに先日の人間ドックの結果が数日前に届き、概ね異常なしだったらしいが、体重があまりにも少なすぎることはやはり指摘されたそうだ。しかしご飯を3杯食べたところでこの人は、出すばっかりでぜんぜん蓄えないのだよな。食事のあとはケーキ。レアチーズケーキは、白一色の平らな表面で、あまりにも飾り気がなかった。そこへ「3」と「6」のろうそくだけ立てた。味はよかった。チーズやらサワークリームやらでできているので、けっこう重たいのかしら、と思いきや、意外と軽く食べられた。そんなお祝いだった。
 夜はビールとチューハイを飲んだ。実は金曜日の夜も飲んだ。飲んだらやっぱり美味しいし愉しいのだった。休みの前夜くらい心置きなく飲むってことにしよう、と思った。毎晩だと洒落にならないけれど、このくらいなら背徳感さえも美味しさの一助になるのではないかと思う。この晩は作り置きの煮豚と煮卵があったので、インスタントのとんこつラーメンなんか作ってしまう。夜中のとんこつチャーシュー麺とビール。なかなかに背徳感が暴れ馬だったが、なんとかかんとか乗りこなし、快楽方面へ持っていった。週末だけやから。
 明けて今日は、ポルガが小学校の友達(の一家)から花見にお呼ばれして出掛けたので、僕とピイガのふたりでプールに行った。子どもに定期的にプールをさせたい気持ちはあって、しかし一家全員で行くとファルマン(しかもこの人は別に泳ぎたくない)への負担が大きく、かと言って更衣室やプールでの目配りなどの都合から僕がひとりで娘ふたりを見るのは難しいので、行く際はどちらかひとりと行って、交互に連れていけばいいのではないかと考えた。そのことを子どもたちに話したら、「じゃあポルガから先!」「ピイガから!」と喧嘩したので、話がそこから先に進まずにいた。だから今日はとてもいい機会だった。次にポルガと行く際はポルガはひとりで女子更衣室に行ってもらうが、ピイガは男子更衣室に一緒に入る。更衣室はほとんど貸し切りなのでなんの問題もなかった。僕も今週は月曜日に無理して行って(喉が少し痛いだけでそこまで体調不良だと認識していなかった)以来だったので、ちょっと久しぶりで嬉しかった。もちろんピイガを付きっきりで見ている必要があるため、ほとんど自分の泳ぎはできない。ピイガの脚を後ろから掴んで押し進めるように泳ぐ、という感じで、なんとか泳いでる感を得た。ピイガはポルガよりは人の話を聞かないということはなく、浮き方ひとつ取っても姉よりは筋がいいように感じる。水泳は自分の泳いでいる姿は目に見えないので、意識の上で自分を客観視できないと上手くならないのだが、ポルガはそれが壊滅的にできない。ピイガは周りの目を気にする性格なので、それが上手なのではないかと思う。数十分そうして過すが、そこまで体を動かしているわけではないので、体が温まらず、温水プールでもさすがに体が冷えてきたので切り上げた。休日の子どもとのプールはこんな感じか。まあ自分の泳ぎは平日にするからいいのだけど。
 午後はポルガも花見から帰ってきて、ちょっと買い物に出るかという話もあったが、そこまで緊急性のある用件でもなく、なにぶん日曜日の午後だったので、よすか、となって家でのんびり過した。おやつに昨日のチーズケーキの残りを食べる。晩ごはんは塩焼きそばと焼売。なんとなくあっさり系中華献立。焼売には2日連続の摂取となる筍を入れた。ホタルイカ、菜の花、筍、カツオ。春の美味しいものはどこか、のほほんとしている気がする。美味しかった。
 先週が1日だけの休みで、しかも4時半とかに起きて、さらにはそのあと体調不良に陥ったので、今週は思う存分に夜更かしと寝坊ができ、いい週末だった。