異世界転生したGW前半

 前半と後半にきぱっと分断されている今年のGWの、前半を終える。
 初日の土曜日は、土曜日なので僕はいつものように、午前中は買い出しに勤しんだ。ちなみに4月の食費も、まあなんとか予算内に収まりそうである。担当している食費のやりくりは、気を抜いたらすかさずオーバーしてしまうような、絶妙な設定になっているため、もう少し余裕があればいいのにと常に思いつつ、なんだかんだで愉しんでいる面もある気がする。
 帰宅して、昼ごはんまでにはまだ余裕があったので、ひとりプールへと繰り出す。ピイガは、混んでいるだろうから、という理由で付いてこなかったのだが、行ってみたら意外と空いていた。世の中、4月はまだプールの機運ではないのかもしれない。
 この日の午後は、どこへ出掛けるということもなく、家で過した。筋トレをしたり、子どもたちの新しいキャスケットを作ったりなど。おやつに白玉を作り、アイスとあんことともに食べる。そして晩ごはんは餃子。ちなみに白玉作りにも、餃子包みにも、もちろんピイガは参画した。そのさまを見て、小学5年生はまだまだ懐っこいものだな、と思ったが、しかしこれはひとえにキャラクターによるものだろう。ポルガはこれよりももっと幼い頃から、食べるものを一緒に作ったりなどまるでしなかった。あいつは将来、どういう食生活で生きてゆくのだろうか。たぶんファルマンの大学時代のような感じになるのだろう。チョコチップスナックと、吉野家と、アセロラドリンクで食いつなぎ、徹夜でネットをし、明け方に寝て、口中に口内炎を作って生きてゆくんだろう。
 2日目は予報どおりに天候に恵まれたので、レジャーデイにする。ポルガは午前中が部活だったため、終了時間めがけて学校まで迎えに行って、そのまま出発する。本当は公園などで食べたかったが、おにぎりを車内で食べた。それでもおいしかったし、テンションが上がった。家族で、車で出掛けて、弁当を食べるの、やっぱり好きだな。車内ではこの日のためにまた、ひとり5曲ずつという約定で作ったプレイリストを流す。僕は最近とてもハマっている歌手から選び、なにしろとてもいい歌なので、家族の心にもさぞ響くことだろうと思ったのだが、全員からポカーンとされたのでショックだった。「山奥のサナトリウムで唄われているような歌」とファルマンに言われ、やっぱり趣味が合わない、と思った。
 レジャーの目的地は、とうとうやってきた、ドラゴンメイズである。雲南市の奥のほうにある、なかなかディープなスポット。目玉は巨大迷路で、存在は前から知っていたのだが、なんとなく機会に恵まれず、ようやく初めての来訪となった。冬は閉鎖するし、真夏は厳しいので、GWというのはこの施設の最も繁盛する時機であろうと推察され、行ってみてあまりにも混んでいるようなら予定を変更し、鬼の舌震にでも行こうかと話していたのだが、もちろんそれなりに賑わってはいたものの、幸いそこまでではなかったため、予定通りに入場した。迷路は選ぶコースによってチェックポイントの数が異なるとのことで、せっかくなのでいちばん多いコースを選んだ。
 このコース選びの説明を受ける段階、もとい駐車場から歩き始めた瞬間からなのだが、いま思い返しても、あれは夢の中の世界だったのではないかと思うような、なんと言えばいいのか、話の通じなさというか、噛み合わなさというか、独特の感性で作り上げられた異常な空気感が横溢していて、とにかく濃厚な体験をした。迷路の要所要所に貼られたポスターには、モチーフが謎のオリジナルキャラクターが描かれ、そいつのセリフの意味がいちいち分からない。また迷路内には、建築基準法や消防法はどうなっているのだろうというような建屋があって、令和の日本とはとても思えなかった。増田こうすけの漫画の中に入り込んだのかと思った。でも総合的な感想としては、「とてつもなく愉しかった」ということになる。そんな不思議でエネルギッシュな施設だった。すべてひっくるめて、こんな体験を家族でできてマジでよかった、と思った。大当たりのGWレジャーだった。
 しかしこの日は気温もかなり高かったので、1時間以上も迷路を歩き回り、だいぶヘトヘトになった。車に戻り、近隣のお店に行って、スポーツドリンクとアイスを買って、全員でむさぼるように食べた。こういうときのアイスの美味しさったらない。そして帰宅後、まだ明るかったがファルマンとすぐにビールを飲んだ。こんなときはビールを飲まなければバチが当たる。疲労とほろ酔いで気怠くなり、とてもいい気持ちだった。
 明けて前半最終日の今日は、ポルガが部活がなかったので、午前中に、GWの特別イベントをやっているという出雲弥生の森博物館へと赴いた。こちらもまあまあ賑わっていた。王墓のボランティアガイドをやっているというのでお願いし、説明を受けながら四隅突出型古墳のエリアを歩いた。回転率などという概念は存在しないようで、とても優雅に、小一時間もかけて案内してくれた。なかなか興味深い話もあって、愉しめた。なにしろ行政が運営する、子ども向けに親しみやすくしているとは言えアカデミックな施設なので、整然とした世界であり、昨日のドラゴンメイズとの落差がすごかった。わが家は今年、ジェットコースターのようなGWを過した、と思った。
 午後は家でのんびりと過した。明日からしばしの平日。そしてGWの後半となる。こちらには次女の一家がまた実家にやってくる予定で、でもどういう日程で来るのか定かでなく、予定が立てづらいというか、もっともそれがなくても、特に計画などはない。ドラゴンメイズもわりと急に決めた感じなので、後半も流動的に、それなりに愉しめればいいなと思う。

のんびりぼやぼや週末

 GW前の週末を、のんびりと過す。
 土曜日の午前中は、この前日にオープンしたブックオフ出雲高岡店へと繰り出した。さらっと書いたが、信じられない文面だ。「ブックオフ」と「出雲」と「オープン」がまさか一文の中に一緒に登場するだなんて。
 ここ数年、更地になにかの建設工事が始まると、ファルマンと「なにができるんだろうね」「ブックオフじゃない?」と言い合うというのが、われわれ夫婦の定番ジョークになっていた。このジョークの笑いのポイントは言うまでもなく、ブックオフが新たにできるはずがない、というところにある。
 そのため今回のオープン、その第一報を聞いたときは、本当に驚いた。ちなみに出雲高岡店というのは、実は2年前くらいに近所の別の場所にあって、それが閉店し、そして今回ホビーオフとハードオフとで合同で新オープンということなので、本当に純粋な新規開店とは少し違うのだけど、それでもすごいことに違いない。
 行ったらもちろん大盛況だった。駐車場は満車で、順番待ちをしてようやく停められた。オープン記念セールなどはなかったのだが、やっぱり地元民の注目度はかなり高いのだった。
 ブックオフができたと言っても、ホビーオフとハードオフとの合同店舗なわけで、本の領分はそんなに大きくないのだろうと覚悟していたのだが、それはまあ事実としては事実だったけれど、在庫が多ければいいというものでもなく、中古屋というのは新陳代謝がどれだけいいかだと思うので、本だけの店よりも集客が良くて、その恩恵により書籍の巡りもよくなるのであれば別にいいな、と思った。
 ホビーオフやハードオフのほうの売り場も眺め、なるほどなあ、などと感じ入った。紙の本が売れなくなって、かつて勤めていたような新刊書店が苦しむのはもちろんのこと、ブックオフも減る一方だと思っていたが、その一方でメルカリやセカンドストリートなどが、リユースの市場を拡大し、なにより人々の中古品に対する意識を変化させて、このような発展を見せ、それが結果としてブックオフを新しく開店させたのだから、なんだか世の中って不思議だな、と思った。大型動物が死んで、それを分解するための微生物が増殖し、その栄養素で植物が繁茂し、その植物のおかげで昆虫が増えるような、なんかそんなサイクルのようだと思った。目の前に困窮があるとすぐに絶望してしまうけれど、長い目で見れば巡っているのだと。そんな哲学的な思いに更けてしまうほど、今回のブックオフ開店は感慨深かった。もしかすると「火の鳥 太陽編」を買ったことも関係しているかもしれない。
 買い物も行ない、午後は家にずっといた。僕はいつものように裁縫と筋トレ。ただし筋トレはあまり調子が上がらなかった。筋トレをするようになって、肉体には明確にバイオリズムがあることに気付いた。筋トレの調子がよく、体の見た目も仕上がっている時期と、なんとなく体がへにゃついていて、筋トレもガチっと決まった感じがしない時期がある。今は後者。ファルマンは「季節の変わり目だから」と言う。ファルマンは1年のうち、300日くらいを指して季節の変わり目と言っているような気がする。もしかすると七十二候で生きているのかもしれない。
 そんなファルマンだが、この日の朝に寝違えたと言って、首を痛そうにしている。痛そうにしていると言うか、痛い痛いと頻繁に口に出しているので、きちんと周りに伝達されている。痛いそうである。こういう痛みの表明について、これまでうっすらと、なんでこの人はこんなにも同じことをアピールし続けるんだろうと、もちろん口には出さないものの感じていたのだが、先日自分が腰をやった経験を通して、なるほどこの人みたいに痛みを外側に放散するのって大事なんだな、と理解した。しんしんとした痛みを、声も出さずに粛々とやり過ごそうとすると、じっとりと気持ちのトーンが落ちていき、どんどん暗い気分になってゆくのだ。そしてたぶんそれは精神を蝕むのだろうと思う。それを回避するため、痛みを大きい声で主張し、逆に陽な感じにするのは、わりと効果的なことであるに違いない。なるほど、今後の参考にしようと思った。
 晩ごはんは鶏の唐揚げにする。土曜の夜の唐揚げにつき、翌日の弁当に回らないので、思いきりにんにくの効いた粉を使う。おいしかった。
 明けて今日は、昨日の夜から降り始めた雨が、一日中しとしとと、降っているような、降っていないような、そんな天候で、気温も低い日曜日だった。ポルガは部活だし、特に外出の予定もなかったので、午前中に僕だけが食料品の買い物に出たほかは、ずっと家にいた。プールは、ピイガにはせがまれたものの、先週連れていったし、僕自身は平日に十分すぎるほどに行っているので、この週末はパスにした。
 筋トレは相変わらず捗らず、わりと漫然と過してしまった。この分では予定がまるで決まっていないGWのことが思いやられる。本当にどうしようかな。ポルガがだいたい部活というのも、計画を立てづらい要因となっている。
 日中、窓の外からカエルの鳴き声が聴こえてきた。雨で土が濡れ、頃合と見て取ったか。七十二候の「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」は、新暦では5月に入ってからなので、ちょっと気の早い奴らだが、ぼちぼち田んぼには水が張られているので、まあ大丈夫か。カエルの鳴き声は久しぶりで、まだまだ個体数の少なさからかわいいボリュームだったし、そのときだけで今は聴こえないが、ピークになれば今年もすさまじいことになるだろう。
 午後は久しぶりにドラクエ11を少しやり、少し進むが、終わりが見えない。仲間が揃わない。仲間が揃ったって、そうすぐにボスに再挑戦するわけでもあるまい。長いよ。ポルガは僕よりもだいぶ前にすっかり放り投げてしまっている。僕だって危うい。
 晩ごはんは、ごぼうと椎茸と豚肉の卵とじ。なんか実家でよくこんなメニューが出ていた気がする。山梨っぽい味かもしれない。
 そんな感じで週末が終わる。今日は本当にぼやぼやと過した。

1年ぶり岡山 後半

 次なる目的地はイオン倉敷である。
 せっかくの岡山なのに特にしたいことが浮かばないと書いたが、1年前の成功体験により、イオン倉敷のパンドラハウスでニット生地を買いあさるというのは、岡山に来た以上は外せない用件なのだった。イオンならばピイガがしたいというガチャのコーナーもあるし、なにより数時間をやり過ごすのにイオンほどの最適解は他にないだろう。
 しかしカーナビの目的地をイオン倉敷に設定したところ、所用時間48分と表示され、かなりびっくりする。そうなのだ、もうすっかり現在暮しているスモールシティ(もとい店のあるエリアがそこしかない)の感覚に染まってしまっていたけれど、要所要所に目的地となるスポットが存在するこちらの世界は、ひとつひとつの移動にわりと時間を必要とするのだった。しかも人の絶対数の多さからか、いちいち道が混む。そうだったそうだった、と車を走らせながら当時の感覚を思い出した。ちなみに交通事情に関連した事柄として、岡山と言えばウインカーを出さないことで有名だけど、久しぶりに走ったら本当にそうだった。そういう話って、取り沙汰される、すなわちネタにされるようになったら、それはもう過去の話で、今はもうさすがにそんなことない、というのがよくあるパターンだと思うが、岡山のウインカーエピソードはバリバリの現役だった。片側3車線ある国道2号線で、左右の車線から中央の車線への車線変更がウインカーなしで平然となされるさまを目の当たりにし、ここは修羅の国だろうかと思った。
 それでも幸いアクシデントなく、しかし実際に50分くらいかかってイオン倉敷に到着する。懐かしい。在住時代はよく来たものだ。いろいろ見て回りたい気持ちを抑え、とりあえず空腹を満たすためにフードコートへと向かう。フードコートはとても混んでいた。たぶんそれが人口密度そのものを示しているのだろうが、島根のそれに比べてテーブルの間がとても狭く、田舎者はとてもどぎまぎした。ピイガなど終始周囲に厳しい視線を向けながらうどんを啜っていた。そして食べたものは美味しくなかった。マックに逃げようかなとも思ったのだが、なんとなくそれ以外の、ごはん系の店のものを選んだ結果、大失敗だった。あまりこんなことを言うのもよくないと思うが、やっぱり大企業の提供する食べ物のほうが、コスパ的に絶対にいい。人生何度目か知れない学習をした。
 食事でテンションが下がったものの、気を取り直し、モール内を見て回る。変わっている店も少なくなかったが、建物の造りはもちろん同じなので、ちゃんと懐かしく思えた。あと島根に較べて、客層が明白に都会っぽいと感じた。実際におしゃれなのかどうなのかはよく分からないが、かなり奇抜と感じる恰好をした人がけっこういて、ああこれが新幹線で大都市と繋がっている文化圏というものか、ということを思った。ピイガは目的のガチャコーナーで、スーパーマリオの腕時計のガチャを回し、赤いキノコのデザインのものをゲットしていた。回すガチャ、堅実ないいセレクトだな、と思った。ピイガはクレーンゲームを好まず、よく吟味して納得した上で、回すガチャを選ぶ。(姉と違って)安心感がある。
 そのあと、待望のパンドラハウスへとたどり着き、ニットはぎれのコーナーを見る。期待をこれでもかと高めていて、そうやって高める一方で、どうせ現実はこれには応えられんだろうと冷めている部分もあった。ところがパンドラハウスはきちんと応えてくれたのだった。1年前とはまるで異なる品揃えで、多彩なラインナップが並んでいて、夢のようだった。別の場所に立ち寄っていて、少し遅れてやってきたファルマンとピイガが、売り場を手ぶらで眺めている僕に向かい、「どうだった?」と訊ねてきたので、「まあこんなもんかな、って感じ」と答えたあと、商品棚の空いている一角にまとめておいた、購入するロール状のはぎれを、両手でむんずと抱えて見せると、ふたりは「えっ」と驚いていた。「それ、棚じゃなかったの?」と。そのくらい買った。レジでは店員に「お仕事されてる方ですか?」と訊ねられたので、「趣味です」と答えた。続けて、「このお店のニットは本当にいいですね、いいものがたくさん手に入ってとても嬉しいです」と伝えておいた。4月のこづかいはだいぶえぐられたが、わざわざ来た果以があった。ホクホクした。GWだと近すぎるが、またポルガは夏にでも友達と遊べばいいと思う。
 そのあとはサーティーワンアイスを食べたり、イオンスタイルでトップバリュの鈴カステラを大量購入したりして、イオンモールをしっかりと堪能した。そして元の駅に戻るのにもまた時間が掛かるので、余裕を持ってこのあたりで出発することに。
 ふたたび戻ったかつての地元では、まだポルガが帰り着くまでに少し時間があったので、当時毎日のように行っていたスーパーに立ち寄る。立ち寄ると言うか、これも予定に織り込み済みで、生鮮品のための保冷バッグも家から持ってきていた。しかし分かっていたことだが、今日の物価高になる以前の、4年以上前の安売りスーパーは、もう幻影の中にしかないわけで、わざわざ岡山で買って帰らなくてもいいかな、と思うような、島根に対してわずかな価格差しかなかったが、でもせっかくだから、ということで肉などを多少買った。イオンで鈴カステラを、スーパーでわずかな価格差の肉を買う僕を見て、ファルマンは「あなたって本当にブレないよね」と、あまり感心した感じではない様子で言った。それはたしかにそうだと思う一方で、久しぶりの岡山で本当になんの目的も持たず、実際にやってきても結局なんにもしたり買ったりしなかったお前も大概だと思うけどな、とも思った。
 しばらくしてポルガが駅に戻ってきたので無事に回収する。友達との久しぶりの邂逅はとても愉しかったそうだ。午前中はメダルゲームで遊び、昼ごはんにはピザを食べ、プリクラを撮り、スタバでフラペチーノを飲んだという。なんだかいろいろ初体験を経たようで、とてもよかったんじゃないかと思う。「プリクラ見せろよー、あのいまどきの目がおっきくなる変なやつかよー」とせがんだが、あえなく拒まれた。ウザい父親をやってしまった。
 そうして島根へと帰った。帰りの車中、ずっとではないが、子どもたちは寝ていた。ポルガが車で寝るのは珍しい。よほど昂揚したのだろう。連れていってよかった。

1年ぶり岡山 前半

 6日土曜日、岡山へと繰り出したのだった。
 去年の3月以来、かの地を離れてから2度目の来岡である。今回の目的も、前回と同じく、ポルガが小学校時代の友達と遊ぶため。ポルガのことをやけに肯定してくれる例の友達は、中学生にスマホはまだ早いという方針の家の子だったはずだが、やはり昨今の時勢的にそれは無理だったようで、夏あたりにスマホをゲットし、すぐにポルガとLINEでつながり、それ以降は頻繁にやりとりをしていたようで、そこで春休みに会って遊ぼうという流れになったのだった。小学4年生の3学期という微妙なタイミングで転校させることになってしまったポルガには、親として若干の申し訳なさがあり、こうして岡山時代の友達と強いつながりを保っていることは、救いであるような、逆に申し訳なさをいつまでも掘り返す要素であるような、複雑な思いを抱く。しかしそれはそれとして、ポルガのそのつながりがなくなったら、その他の3人はもはや岡山になんの接点もなくなってしまっているため、行く機会がまるでないことになってしまい、それはさすがに寂しい気もするので、こうしてポルガの交遊をきっかけに岡山に行けるのはこちらとしてもありがたい。ふだん島根からまったく出ないので、山陽の岡山に遊びに行くとなると、それなりに心が躍る。
 しかも今回は、親同伴で美観地区を回った前回と異なり、最寄りの駅で向こうの友達と落ち合ったあとは、子どもたちだけで電車に乗って岡山駅に出て、イオン岡山で半日ほど遊び、再び駅に戻ってくるまでの間、われわれ3人は完全に別行動という計画になっていたため、その岡山での自由な半日をどう過そうかというワクワク感があった。
 それでだいぶ前からいろいろ思いを巡らせていたのだけど、いざ実際に行くとなると、実はどうしてもここに行きたいという場所はなにも思い浮かばず、そのことに少しショックを受けたりもした。6年半も暮したのに、どうして再び訪ねたい場所が特にないのか。もしかして自分はとてもつまらない人間なんじゃないのかと思った。結局あまりプランは定まらないまま、当日の朝を迎えた。
 9時半くらいに集合場所の駅に着いて、10時くらいからイオン岡山で遊ぶためには、島根を6時半くらいに出発する必要がある。6時前に起きて、身だしなみだけ整えて、すぐに車に乗り込んだ。朝ごはんは車内だ。高速道路を使っての大規模なお出掛けは、去年11月の東広島以来で、先週ノーマルタイヤに履き替えたこともあり、冬を乗り越えたのだな、という思いがこみ上げた。折しも当初の予想から1週遅れて、この週末が桜の満開に当たり、道中そこかしこで見事に咲いているのを見かけた。今回のために作成した、ひとり25曲、約6時間のプレイリストは耳新しい曲が多く、心地がよかった。結局お出掛けというのは、目的地うんぬんよりも、この移動時間こそが愉しいのだよな、などと改めて思った。
 道にトラブルもなく、ほぼ予定通り、9時半過ぎに集合場所である駅に到着する。友達は今も住まう、かつてわれわれ一家も住んでいた街の最寄り駅であり、とても懐かしい。去年の3月も美観地区での時間のあと、勝手知ったる安心感からこの地のパーキングに車を置いて、翌日からの横浜行きへと旅立ったわけだが、その際は帰りも含めてわりと慌ただしかったため、そこまで落ち着いて眺める余裕がなかった。しかし今回、無事に友達と落ち合ったポルガが電車に乗って岡山へと出発したあとは、6時間近く自由ということで、3人で少し往時の生活エリアを見て回った。頻繁に利用していたドラッグストアやスーパー、なにより当時の住まい。驚いたことに、ピイガは当時の住まいのことを覚えていなかった。ピイガは生後2ヶ月からそこで暮し始め、7歳になる直前まで過していたというのに。まあ僕もその年齢の頃の記憶なんてほとんどないけれども。
 そうしてしばし居住地の思い出巡りをしたあと、今度は僕が通勤で使っていた道を少し走ることに。これはもちろんノスタルジックから来た行為なのだけど、ひとつだけ言い訳として、この通勤の途中に、当時いつも利用していたガソリンスタンドがあり、そこが滅法ガソリン価格が安かったので、せっかくだからそこで給油をしようと考えたのだった。
 道は懐かしかった。6年半勤めたので、優に千回以上走った道だ。当時は軽だったのであまり感じなかったが、けっこう裏道っぽい道を使っていたので、こんなに狭い道だったのか、などと思った。目的としたガソリンスタンドは、期待を裏切らず安かった。実は前の週に岡山に行っていた三女から、岡山のガソリン価格は島根に較べてだいぶ安いと聞いていたが、本当だった。どれほど違うかと言えば、リッターあたり20円近く違う。ちょっと違い過ぎないか。ここまで違うと、岡山で安く給油できた嬉しさよりも、日頃のガソリン代へのつらみのほうが大きくなる。知らないほうがよかったかもしれない。前からこんなに違ったろうか。山陰は離島なのだろうか。
 ガソリンスタンドをゴールとして、来た道を戻る感じで、次の目的地へと向かうことにした。ここまで来たからには当時の職場のほうへも行ってしまおうかな、とも少し思ったが、さすがによした。職場の近くの公園には、オオキンケイギクが群生するスポットがあったため、シーズンだったら行けたかもしれない。しかし時期にはまだ1ヶ月半ほど早いため、さすがに大義名分がなく、訪ねるのはあまりに感傷が過ぎると思った。
 後半に続けることにする。