1年ぶり岡山 前半

 6日土曜日、岡山へと繰り出したのだった。
 去年の3月以来、かの地を離れてから2度目の来岡である。今回の目的も、前回と同じく、ポルガが小学校時代の友達と遊ぶため。ポルガのことをやけに肯定してくれる例の友達は、中学生にスマホはまだ早いという方針の家の子だったはずだが、やはり昨今の時勢的にそれは無理だったようで、夏あたりにスマホをゲットし、すぐにポルガとLINEでつながり、それ以降は頻繁にやりとりをしていたようで、そこで春休みに会って遊ぼうという流れになったのだった。小学4年生の3学期という微妙なタイミングで転校させることになってしまったポルガには、親として若干の申し訳なさがあり、こうして岡山時代の友達と強いつながりを保っていることは、救いであるような、逆に申し訳なさをいつまでも掘り返す要素であるような、複雑な思いを抱く。しかしそれはそれとして、ポルガのそのつながりがなくなったら、その他の3人はもはや岡山になんの接点もなくなってしまっているため、行く機会がまるでないことになってしまい、それはさすがに寂しい気もするので、こうしてポルガの交遊をきっかけに岡山に行けるのはこちらとしてもありがたい。ふだん島根からまったく出ないので、山陽の岡山に遊びに行くとなると、それなりに心が躍る。
 しかも今回は、親同伴で美観地区を回った前回と異なり、最寄りの駅で向こうの友達と落ち合ったあとは、子どもたちだけで電車に乗って岡山駅に出て、イオン岡山で半日ほど遊び、再び駅に戻ってくるまでの間、われわれ3人は完全に別行動という計画になっていたため、その岡山での自由な半日をどう過そうかというワクワク感があった。
 それでだいぶ前からいろいろ思いを巡らせていたのだけど、いざ実際に行くとなると、実はどうしてもここに行きたいという場所はなにも思い浮かばず、そのことに少しショックを受けたりもした。6年半も暮したのに、どうして再び訪ねたい場所が特にないのか。もしかして自分はとてもつまらない人間なんじゃないのかと思った。結局あまりプランは定まらないまま、当日の朝を迎えた。
 9時半くらいに集合場所の駅に着いて、10時くらいからイオン岡山で遊ぶためには、島根を6時半くらいに出発する必要がある。6時前に起きて、身だしなみだけ整えて、すぐに車に乗り込んだ。朝ごはんは車内だ。高速道路を使っての大規模なお出掛けは、去年11月の東広島以来で、先週ノーマルタイヤに履き替えたこともあり、冬を乗り越えたのだな、という思いがこみ上げた。折しも当初の予想から1週遅れて、この週末が桜の満開に当たり、道中そこかしこで見事に咲いているのを見かけた。今回のために作成した、ひとり25曲、約6時間のプレイリストは耳新しい曲が多く、心地がよかった。結局お出掛けというのは、目的地うんぬんよりも、この移動時間こそが愉しいのだよな、などと改めて思った。
 道にトラブルもなく、ほぼ予定通り、9時半過ぎに集合場所である駅に到着する。友達は今も住まう、かつてわれわれ一家も住んでいた街の最寄り駅であり、とても懐かしい。去年の3月も美観地区での時間のあと、勝手知ったる安心感からこの地のパーキングに車を置いて、翌日からの横浜行きへと旅立ったわけだが、その際は帰りも含めてわりと慌ただしかったため、そこまで落ち着いて眺める余裕がなかった。しかし今回、無事に友達と落ち合ったポルガが電車に乗って岡山へと出発したあとは、6時間近く自由ということで、3人で少し往時の生活エリアを見て回った。頻繁に利用していたドラッグストアやスーパー、なにより当時の住まい。驚いたことに、ピイガは当時の住まいのことを覚えていなかった。ピイガは生後2ヶ月からそこで暮し始め、7歳になる直前まで過していたというのに。まあ僕もその年齢の頃の記憶なんてほとんどないけれども。
 そうしてしばし居住地の思い出巡りをしたあと、今度は僕が通勤で使っていた道を少し走ることに。これはもちろんノスタルジックから来た行為なのだけど、ひとつだけ言い訳として、この通勤の途中に、当時いつも利用していたガソリンスタンドがあり、そこが滅法ガソリン価格が安かったので、せっかくだからそこで給油をしようと考えたのだった。
 道は懐かしかった。6年半勤めたので、優に千回以上走った道だ。当時は軽だったのであまり感じなかったが、けっこう裏道っぽい道を使っていたので、こんなに狭い道だったのか、などと思った。目的としたガソリンスタンドは、期待を裏切らず安かった。実は前の週に岡山に行っていた三女から、岡山のガソリン価格は島根に較べてだいぶ安いと聞いていたが、本当だった。どれほど違うかと言えば、リッターあたり20円近く違う。ちょっと違い過ぎないか。ここまで違うと、岡山で安く給油できた嬉しさよりも、日頃のガソリン代へのつらみのほうが大きくなる。知らないほうがよかったかもしれない。前からこんなに違ったろうか。山陰は離島なのだろうか。
 ガソリンスタンドをゴールとして、来た道を戻る感じで、次の目的地へと向かうことにした。ここまで来たからには当時の職場のほうへも行ってしまおうかな、とも少し思ったが、さすがによした。職場の近くの公園には、オオキンケイギクが群生するスポットがあったため、シーズンだったら行けたかもしれない。しかし時期にはまだ1ヶ月半ほど早いため、さすがに大義名分がなく、訪ねるのはあまりに感傷が過ぎると思った。
 後半に続けることにする。