夏のひとり暮し開始

 昨日からファルマンと子どもたちが島根に帰省したのだった。午後に義父母が車で迎えに来て、「寂しくなるよー」と棒読みで言いながら見送った。
 しかし寂しくなる、というのは決して嘘ではなく、自分以外に誰もいない家は、まあ寂しいと言えばもちろん寂しいのだ。けど、「じゃあパパが寂しくないように帰省しないね」などと言われたら、いやいやいや! そんな気遣いはいいから気の済むまで帰省してきなさい! と慌てて弁明したくなるような、そういう寂しさということである。たぶんこんな自分勝手な心の間隙を埋めてくれるのが、友達なのだと思う。友達ってそういうガバガバな感情を受け止めてくれる便利な存在だよね。寂しさを紛らわすために久しぶりにあいつらに声をかけてROUND1にでも繰り出そうかな、などと考えた。
 でも友達なんていないので、ひとり家に取り残された半日は、午前中に手芸屋に行って買ってきた生地で、計画通りに子どもたちのワンピース作りをした。裁断する場所、アイロンする場所、ミシンをする場所が、ひとりだと気ままに取れて、作業がスムーズだ。さらにはごはんのときも寝るときも、広げたそれらを片付けなくていいのがとても楽。おかげで半日でそれなりに進んだ。
 晩ごはんはハヤシライスを作った。作って置いていってくれたわけではない。午前中のスーパーで牛肉がお買い得だったので、これでハヤシライスを作れば日曜の夕飯、月曜日の弁当と夕飯がそれで済むな、と計算したのである。洗い物が少ないのもいい。裁縫道具を広げた机の隅っこで、もそもそと食べた。ひとりで摂る食事は味気ない、ということもなく、ただ物理的に味が薄くて味気なかった(あとで鍋のほうにルーを少し足した)。食後にはキウイを食べた。ひとりでの食生活で野菜が不足するのは目に見えていたので、こういうのでビタミンを摂ろう、と購入した。そのキウイも、半分にだけ切って、その場でスプーンで掬って喰う。とにかくビタミンが目当ての、実に質実剛健な摂取なのだった。
 就寝の際はエアコンの調整に難儀した。いつも28℃設定でも朝方は寒くなるので、今日は人間もひとりなのだし29℃だな、としてみたら、途中で汗だくになった。寝苦しくて目が覚めてよかった。ひとり暮しの怖さは、目が覚めない怖さだ。そのため毎朝、ファルマンに生存報告のLINEを送ることにした。
 ファルマンたちは向こうで、実家のリビングで新しく飼い始めた犬との接し方に苦戦しているらしい。最近になって気がついたけど、僕の家族はファルマンを筆頭に、あんまり実際の生き物が好きではないのだと思う。キャラクターは好きなのだけど、キャラクターが好きな分だけ、本物の動物は苦手なものなのかもしれない。それでちょっと苦慮しているらしい。実家の面々はやんちゃな仔犬に対して押し並べてデレデレであるらしく、優先順位も高く、その温度差が悩ましいという。なんだか実家っぽいな、と思う。