夏に打ち勝つ模様替え

 それ以外にほとんどいうことがないのだが、暑すぎる。人生は、なにかをするには短すぎるし、なにもしないには長すぎる、という、誰にとっても絶望的などうしようもない言葉があるけれど、それでいうならこの夏は、なにかをするには暑すぎるし、なにもしないにも暑すぎる。とにもかくにも暑い。
 しかしこのままではあまりにも無駄に日々が過ぎ去ってしまう、どうにかここで一念発起し、夏に対して一矢報いてやろうではないかと夫婦で話し合った結果、模様替えを決行した。もはやプロペ家名物といってもいい、模様替え。聖家族とはよくいったもので、完成しないという完成された芸術としての、我々はプロペダ・ファミリアなのかもしれない。
 今回の模様替えの大きなトピックスとしては、僕とファルマンのパソコン机が、別々の部屋になったことだ。一緒に暮しはじめてからこれまで、このふたつは、背中合わせ、向き合い、横並びと、いろいろな配置を変遷しながらも、常に同じ部屋に在った。それが今回、とうとう別れたのである。別れた、という表現をあえて使い、不穏な空気をにおわせてみたが、もちろん夫婦関係がどうにかなったわけではない。もし本当にそうだとしたらこんなことをわざわざ書くわけがない。じゃあどういう事情か、といえば、これまでパソコン机をふたつ置いていた夫婦の寝室が実は狭くて不便だったとか、エアコンの冷風とベッドの配置がよろしくないとか、寝室のスペースに余裕ができたらクローゼットの中に置いているプリンタ複合機を外の世界に引っ張り出すことができて使いやすくなるとかの、ワールドワイドウェブに記しても仕方ない、生活の中の細々とした事情である。とはいえそれらの理由は、別に最近になって発生したものではない。この形になってからずっとあった問題だった。しかしそれはこれまでずっと黙殺され続け、そしてこのたび突如として改善された。なぜか。それは約1ヶ月半前にわが家にやってきた、工業用ミシンが関係している。あのタイミングで手に入れるしかなかった工業用ミシンは、居間に半ば強引に設置し、それ以来居間の一角は僕のハンドメイドスペースの様相を呈していたわけだが、ならばもういっそのことパソコンもこっちに持ってきて、完全に僕のエリアにしてしまえばいいのではないか。平時にただパソコン机を居間に持ってくる選択肢はなかったが、強制的な工業用ミシンの来襲によって、にわかに機運が高まった。そんなわけで、「工業用ミシンがやってきた」という「nw」に投稿した記事内の写真では、オーバーロックミシンを置いているスペース、ここにパソコンを置くことにした。オーバーロックミシンは、直線ミシンの横にあったらすごく便利だ、ということを記したが、あの当時は無職になってすぐで張り切っていて、子どものブラウスなどを盛んに作っていたのでたしかに便利だったが、最近は衣類はひと段落してヒットくん人形とか小物を中心に作っているため、オーバーロックミシンは実は使っていなかった。実際、服作りをコンスタントに行なうわけではない限り、オーバーロックミシンがすぐに使える状態にあるメリットはそこまでない。というわけでそれは棚に仕舞い、代わりにパソコンを置いた。工業用ミシンのでかいテーブルはなんと便利なのだろう。ミシンのすぐ横にパソコンがあり、マウスを少し大きく動かせば、マウスがミシンの押さえにぶつかってしまうような環境。こじんまりとしているが、足りている。むしろこのコンパクトさが愛しい。そしてファルマンはファルマンで、部屋から僕のパソコン机一式がなくなったのだから、もちろん部屋に余裕ができ、これまでは椅子を満足に引くことさえできないような状態だったのだが(椅子がでかすぎるのだ、という説もある)、それも改善された。だからお互いにとってよかったに違いない。
 あとちなみに、今回のパソコン別離移動が実行に移されたのは、なんだかんだでパソコンの比重が下がっているのも要因だと思う。ふたりとも、毎晩1時間半くらいかけて、とりあえずブログの記事をアップする、というような暮しをしていた頃だったら、その別離はあまりにも別離すぎて、やらなかったと思う。現在はブログの更新頻度がそこまでじゃなくなったし、それぞれタブレットでインターネットもだいぶするようになったので、パソコン=居場所じゃなくなった。そういう時代の趨勢も影響していると思う。
 しかしとにかく気分転換になった。パソコンの配置が変わるとリフレッシュして愉しい。ベッドの向きも変わったので、それも今晩から新鮮だろうと思う。勝ちたい。夏に勝ちたい。勝たないまでも、ちょっとでも軍勢を押し返してやりたいじゃないか。