焼肉の夜

 義父母が、1月に揃って誕生日を迎える孫ら、すなわちポルガとピイガを祝う名目で、焼肉に連れて行ってくれる。なぜ急に外食かと言えば、島根県の飲食店で使えるクーポン券の使用期限が1月末日までという事情があったようだ。どちらにせよありがたい話である。
 はじめファルマンから、「誕生日のお祝いで焼肉に連れてってくれるって」と伝えられた際、僕は本当にナチュラルに、「よかったじゃん。たくさんご馳走してもらいなね」と反応をしたのだけど、「違うよ、あんたも一緒にだよ」と言われ、「えっ……」となった。焼肉屋に、行くの? 俺が? と、すんなりとは受け入れられなかった。焼肉屋という空間に身を置くことに、どうも抵抗感があるのだった。そもそも肉肉とした肉がそこまで好きではない(脂の多い肉を食べるとお腹を壊しがち)というのと、あとなにより、「肉ー!」とか、「焼肉ー!」みたいな感じでテンションを上げる輩が嫌いなので、そういう人々が集う場所にあまり身を置きたくないのだった。
 そんなわけでファルマンに、できれば俺は除外してくれればいいと思うし、あるいは焼き肉屋以外のお店という選択肢はないだろうか、みたいなことを提案する。したところ、ものすごく面倒くさそうな顔をされた。それはそうだと思う。親と夫に挟まれ、面倒な立場だ。本当に申し訳ないと思う。それでファルマンが親と少しやり取りした結果、前者の要望は却下されたが、お店に関してはなんならそっちで選んでくれても構わない、みたいなことを言われる。それでクーポン券が使用できる店一覧のページを眺めたのだが、どうもしっくり来ない。結局のところ、僕は外食があまり好きではないのだと思った。奢ってもらえるなら、スシローか、かつやの、テイクアウトがいい。いや、かつやなんてもう何年も食べてない。もう重くて食べられないかもしれない。ほら、こんな奴を会食に招待するなよ。しようとするから話が面倒になる。僕は辞退しようとしたのだ。その日はひとり家でラ王のとんこつ醤油ラーメンとビールでいい。それがなによりいい。それが許されなかったからこんなことになった。
 それで結局、焼き肉屋になった。とてもとても久しぶりの焼き肉屋だった。練馬でファルマンとふたりで牛角に行って以来じゃないか、すなわち前の卯年以来くらいなんじゃないかと思ったが、よく考えたら第一次島根移住の際、やはり義両親に連れられて、1歳か2歳かというポルガと5人で、焼き肉屋に行ったことがあった(日記を探したが記録していないようだった)。ぜんぜん覚えていない。なにしろそれだって10年だ。それにしても義両親はよく焼肉屋に行くことだ。昨秋、三女の誕生日祝いでも行っていた。あの世代の陽キャって本当によく焼き肉屋に行く。次女の夫の親もよく行くそうだ。モーレツだとしみじみと思う。
 それで久々の焼き肉屋はどうだったかと言うと、やっぱりまあ、良さがよく分からないものだな、という感想を抱いた。皿にちまちまと乗ってやってくる肉片を、ちまちまと焼き、その焼き加減も、いいのだか悪いのだかさっぱり分からず、火は熱く、うるさく、焼いた肉を味の濃いたれにつけて口に入れ、白米を食べるのは、それはもちろん美味しいのだけど、でもその美味しさは、わざわざこんなことをしなくても容易に手に入るものだろう、という気がした。どうにもこうにも、向いていないのだと思った。
 祝われる対象である子どもたちは、ポルガが幼少期のそれ以来、ピイガに至っては初めての焼き肉屋で、終始きょとんとしていた。肉を焼き、白米を食べ、そして味のまぶされたキャベツを食んでいた。キャベツをやけに食んでいたのがおもしろかった。なんかよく分からない外食体験となったことだろう。
 義両親は相変わらずだった。義父は「最初はタン塩」という、ルールなのかマナーなのかさっぱり分からないそれを遵守しようとし、義理の息子はそういう儀式めいたことを頑なに受け入れず、義母はそんな義理の息子にあきれた様子を見せながら、タン塩を思いきりたれにつけて義父に窘められていた。いつも通りだった。
 そんな焼き肉の夜だった。