秋カラ誕

 久しぶりにカラオケに行く。9月はまたなんだかんだとバタバタしていて、これが初めてのカラオケで、実際いつぶりだろうかと過去の記事を探ったら、なんと7月の終わり以来だった。に、2ヶ月……? 久しぶりのカラオケだという認識はあったが、そこまで間が空いているとは思っていなかったので、いま本当にびっくりしている。俺の8月は一体どこへ行ったんだ。表面がぬめぬめしたもので覆われた流線型の8月は、僕の手の中に一切とどまることなく、一瞬ですり抜けていったんじゃないか。そもそも夏なんてあったのか。7月初頭の豪雨から、台風や地震、そしてなにより連日の猛暑など、異様に災害の多かったこの夏は、世界全体に規定以上の圧が掛けられていたのかもしれない。だとすれば、それをなんとか生き抜き、いま秋を迎えたここに存在しているだけで、褒められるべきなのかもしれない。それ以上のなにかを求められても困る。
 唄ったものは以下の通り。
 1曲目、「喝采」(ちあきなおみ)。カラオケの導入として、あまり激しい歌はまだ気持ちや喉が出来上がっていないし、かと言ってしっとりし過ぎた歌だと場があたたまらないので、それなりに悩む。悩んだ結果がこれだった。悪くない選曲だったと思う。ちあきなおみも、作詞者の吉田旺もよく知らないのだが、唄っているとちあきなおみの気持ちになり、吉田先生に感謝して唄いたくなる歌だと思う。
 2曲目、「テルーの唄」(手嶌葵)。こんなん朗々と唄ってみたらおもしろいんじゃないかな、と思って唄った。唄を選ぶとき、自分が唄いたいと同時に、常に場の反応のことを考えている。こんな僕がどうして「友だち0人、9月20日」なのかと思う。実際に唄ってみて、なかなかよかった。友達とカラオケに行って、友達たちが「U.S.A」とか「さよならエレジー」とか唄う中、こんなんを唄いたい。そんなことを夢見る。果てしない夢だ。実際は家族としか来ない。その家族、その妻は、僕のこれのあとでなにか呼応するものがあったのか、「もののけ姫」を唄っていた。僕が「テルーの唄」を唄うのはギャグだけど、ファルマンのそれはギャグなのかどうなのか分かりづらく、やっぱり本物は違うな、と思った。ちなみに「ゲド戦記」はいまだに観たことがなく、間奏中に主人公のモノマネをしようと思うのだが、「ゲド!」とか「ゲドがテルーを!」とかと叫ぶだけしかできない。バカにしてる。
 3曲目、「Mr.Moonlight ~愛のビッグバンド~」(モーニング娘。)。まあこれは完全な悪ふざけだ。いわゆる時事ネタ。「恋は時に急発進で 恋は時に急ブレーキ!」という歌詞が心に刺さった。不謹慎だと思います。
 4曲目、「月光」(鬼塚ちひろ)。この曲は、これまでのカラオケでファルマンがたまに唄い、そのたびに「うわあ……」という気持ちにさせられてきたので、僕も会得して、友達とのカラオケの席でみんなを「うわあ……」とさせようと夢見、数日前から車中で練習していた。そして唄った。でもやってみたらファルマンの唄ったときのようなあの空気はぜんぜん出せなかった。「あなたって結局、基本的に明るいんだよ」とファルマンに評された。たしかに僕には不愉快に冷たい壁に弱さを許すという発想はない。ちょっとなに言っているのかわかんない。
 というわけで5曲目に「木綿のハンカチーフ」(太田裕美)、さらには6曲目は「気まぐれロマンティック」(いきものがかり)と、明るい曲を続ける。こっちか。俺が輝けるのはこっちか。果たしてそうだろうか。明るい暗いは相対的なものだろう。そりゃあファルマンのような人とカラオケをするとなったら、僕のようにその相手は自然と明るい歌担当にならざるを得ないが、その人が本当に華やかな面々とカラオケに行ったら、本当に明るい人たちの明るい歌に気圧され、みるみる化けの皮が剥がれて意気消沈するはめになるのではないだろうか。じゃあ一体どうすればいいのか。ノイローゼになりそうだ。0人の友達のことを考え過ぎて、頭がおかしくなりそうだ。
 7曲目、「愛をこめて花束を」(Superfly)。これはもはや持ち歌のようになった。キャンプで唄えなかった雪辱も込めて、気持ちよく唄う。
 ラスト8曲目、「トリセツ」(西野カナ)。そう言えばカラオケで唄ったことない、と思ってなんとなく唄った。いまいちだった。熱唱して気持ちいいというタイプの曲ではないし、ギャグとしても思った以上に中途半端だった。これは家族カラオケで試しておいてよかった。友達とのカラオケのときは、たとえその中に結婚直前みたいな奴がいたとしても避けようと思う。もちろん結婚の先輩として相談には乗るけどさ!
 以上である。こうして振り返ってみると、すべて女性の歌だ。一方でファルマンはGLAYやイエモンやT.M.Revolution、そしてB'z なんかを唄っていた。案外そういうものなのか。普通そういうものではないのか。分からない。0×0の夫婦にはなにも分からない。
 カラオケのあとは図書館やスーパーなどに寄って帰る。午後はのんびりと過した。カラオケでは、ワンオーダー制のルームメニューで、食べたような、あんまり食べてないような、微妙なお腹の具合だったので、おやつのような時間にカップラーメンを食べた。それとビール。休日の午後、変な時間に食べるカップ麺とビール。愉悦のひとときだった。
 晩には僕の誕生日の祝いが開催される。今年もまた子どもたちが大いに張り切って祝ってくれた。ポルガは今年も「ぱぴろうずかん」をくれて、ピイガは最近ハマっているというスズランテープで作った三つ編みの飾りをくれる。ちなみに家族からの誕生日プレゼントとしては、ブルートゥースのイヤフォンをリクエストしていて、これはもう数日前に、自分で製品を指定して、自分で発注して、届いて、今日まで我慢することなんてできずに、既に使用している。ありがとう! 誕生日ケーキは、僕の希望した、バナナが中央にまるごと入ったチョコレートのロールケーキを、ファルマンが子どもたちと作ってくれた。とてもおいしかった。そんな誕生日。夏の終わりの実感もあり、毎年自分の誕生日はしみじみと嬉しい。これで僕も28歳か。そろそろ30代の足音が聞こえてきたな……。