大改造

 疲労困憊である。断行したのである。わが家の大々的な模様替え、もとい改造をである。もはや模様替えなどというゆるやかな表現ではふさわしくないほどの大事業、聖域なき改革だった。これによりこの住まいでのわが家の暮らしは、第2部へと転換したと言っていい。
 なんてったって2段ベッドである。これを導入するにあたり、これまでひとつの部屋に3つ並べていたベッドが、ひとつでよくなった。そうしてベッドがふたつなくなった部屋に、僕とファルマンの机を持ってきた。ここはこれから僕とファルマンの部屋になるのだ。かくして僕とファルマンの机(すなわちパソコン)は、普通に横に並ぶことになった。向かい合わせ、背中合わせ、角突き合わせ、これまでいろいろなフォーメーションを取ってきたが、横並びはというのは実は初めてである。互いの画面が簡単に視界に入るのが、なんとなくまだ慣れない。これじゃあ自由奔放に本能の赴くままのページは開けないじゃないか、と思う。いっそパーテーションで仕切ろうかとさえちょっと思う。しかし部屋の状態そのものはとても快適だ。なにしろこの部屋には子どものものが一切ない。折り紙作品がセロテープであちこちに貼られたり、レゴが落ちていたり、そんなことがまるでないのだ。それだけのことで部屋というのはとても快適になる。もちろんまだ完全に整ったとは言い難く、これからさらにどんどん心地よくしていこうと思う。そうだ、自分の家というのは、そして部屋というのは、居心地がよくて心が安らぐものだったのだな。この数年、そのことをちょっと忘れていた。
 僕とファルマンの机が立ち去り、これまで家族4人の机が結集していた、通称「机部屋」が、今後は子どもたちの部屋ということになる。それで親の机があった場所に2段ベッドを配置、ということなら話は簡単だったのだけど、エアコンの位置の事情などからそうはいかず(上段で寝るポルガに風があまりにも至近距離で当たってしまう)、そのため一念発起して、その反対側の壁をほぼ塞ぐようにして聳える2台の本棚を、動かすことにする。これが本当にもう、重労働だった。もちろんそのままでは動くはずもなく、ぎちぎちに詰まった本を、いちど全て取り出す。空っぽになってようやくなんとか動かせる重さになり、想定の位置に移したあとは、また取り出した本を入れ直さなければならない。この作業でくたくたになった。
 ここまでが終わって、土曜日の、夕方だった。もちろん翌日の日曜日もあるのだが、もうベッドを解体してしまっているので、子どもたちの寝床は作らなければならず、「こ、このヘロヘロの体で、これから2段ベッドを組み立てるだと……?」となった。最奥にいるボスと戦うためにダンジョンを突き進んだら、ボスのもとにたどり着いたときにはもはやボロボロ、みたいな状態。それでもやるっきゃないのでがんばった。とは言え、物が大きいし箱の数も多いので怖気づいたが、それでも説明書通りに作ればいいのだから、話せばわかる相手だった。それより本棚の移動のほうがよほど大変だった。
 かくして2段ベッドが完成する。おおー、となった。ファルマン家にはあったらしいが、僕の家にはなかったので、2段ベッドというものに馴染みがない。家に2段ベッドがあるというのはこういう感じか、と思った。2段でなくしたあとも長く使えるようにと、奮発してけっこういいものを選んだので、見栄えがいい。子どもたちももちろん大喜びだった(組立作業中も、何度注意しても乱入してきた)。
 当夜は、子どもたちは無事に寝られるだろうか、初日に躓くと尾を引きそうだな、と危ぶんだが、子どもたちにも模様替えの手伝いでそれなりに疲労があったのか、無事に寝た。朝方に目を覚ましたピイガが少し泣いただけで済んだ。
 日曜日は、本棚を移動したりベッドを作ったりという大々的な作業ではない、しかし諸々の必要な作業をひたすらやった。これは達成感がないし、地味にすごく疲れる。ファルマンは引っ越し狂なのでこういう作業は得意であり、バリバリとやってくれたが、僕はだいぶ引け腰で、子どもを連れてスーパーに行ったり、料理をしたり、ブックオフに本を売りに行ったりして、それなりにサボった。適材適所ですね。
 そんなこんなで、とても疲れた週末だったが、無事に大事業が成った。よかったよかった。