丸眼鏡とすき焼き

 ショッピングモールに出る。確たる目的があった。眼鏡である。「まんぷく」やら「ハリーポッター」やらで高まっている丸眼鏡欲求がこのたびとうとう抑えきれなくなり、買うことにしたのだった。
 モール内には2軒の眼鏡屋が入っていて、最初に有望視していたほうの店を覗く。まあこれかな、というものが見つかるものの、なんとなくレジに運ぶまでの勢いがつかず、もう一軒も見てみることにする。これが大成功だった。はじめのほうの店で見ていた丸眼鏡は、振り返ってみればラウンド型寄りのボストン型といった感じで、そこまで丸眼鏡丸眼鏡していなかった。丸眼鏡を買うのだ、と強い意欲を持って買いに来たのだから、本当にちゃんと丸い眼鏡を僕は欲していたのだった。それが2軒目にはあった。もう正円である。まん丸である。子どもが絵で描くような眼鏡。その現実バージョン。フレームは細目で、色は金。つまり、かなり振り切れている眼鏡である。僕はどこまでも群衆の一部でしかない一般人だけど、あまり群衆の一部でしかない一般人は日常的にかけたりしないタイプの眼鏡であると思う。でも僕は最近キャスケットかぶってバトン回したりしていて、怖いものがどんどんなくなってきたので、そんな振り切った眼鏡を、僕が探し求めていた丸眼鏡ってこういうことだと、喜んで選択した。店内で装着してファルマンに「これどうかな?」と見せたとき、思いきり顔をしかめられたが、そんな妻の反応にもめげずに意志を貫いた。しかもそのお値段たるや、1軒目の、「まあこれかな」に対して、なんと半額だったのである。心にビビビッと来て、半額。こんな嬉しいことがあるか。とてもいい買い物をした。今日買いに行ってよかった。出会い物ってこういうことだな、と思った。
 眼鏡の完成を待つ間に、モール内のうどん屋で昼ごはん。乱高下していた気温がここ2日でまたがくんと下がっており、あたたかいうどんがとてもおいしかった。今年の、公園で弁当を食べるシーズンももう完全に終了したな。何回かできてよかった。
 眼鏡を受け取って帰宅。ほくほくした気持ちで鏡を何度も眺める。我ながらとても胡散臭く、気持ちが悪い。そしてそこがいい。ニヤニヤしてしまう。ファルマンは顔を見合わせるたびに、「まるっ!」「まっる!」「まりーわ!」と悪態をついてくる。それどころか、「その眼鏡、丸すぎて人を殴りたくさせるから気をつけな」などと言ってくる。「的に見えるから」などと言う。そんな発想をするのは戦闘民族かゴリラだけだと思う。
 午後はまた溜まっていた「西郷どん」を2話ほど観たり、僕だけ近所のスーパーに買い物に行ったりした。スーパーでは晩ごはんの材料のほか、クリスマス用と、1月4日のピイガ用に、スポンジとクリームをもう買う。もう賞味期限が大丈夫だったから。ピイガの誕生日のそれは、年明けに買おうとすると店になくて困るので、クリスマス用に売り出しているときに買っておかなければならないのだった。
 晩ごはんはすき焼き。おいしい。砂糖と醤油と卵って、もう最強だろうと思う。ビールの後、日本酒。すき焼きで日本酒って、永遠に続けられる気がする。でもさすがに糖分過多かしら、などと無粋なことも思う。しかしうっとりするほどおいしい。冬、こたつで家族と囲むすき焼き、日本酒。そしてジョン・レノンばりの丸眼鏡。今日はそんな日。