ずっ友4連休

 木曜日の春分の日と、土日に挟まれた、平日の金曜日。実は僕、休みだった。去年の繁忙期に返上して出勤した休業日がここに移動し、しれっと4連休が爆誕していたのだった。4連休。かつての書店員時代ならば考えられなかった4連休。しかも世間は平日の日を含む4連休である。子どもたちはまだ春休みではないし、ファルマンもこの日に限って午前にPTAの会合があるという。なので完全なひとりフリー。とてつもなくレアな1日。なのでそれはもうジタバタした。なんかしなきゃ、なんかしなきゃ、と。それで真っ先に浮かんだのはやっぱりラウワン、ROUND1である。見果てぬシャングリラ、ラウワン。行くあてなどないまま、僕はよくそのホームページを眺めているのだけど、そのコースプランに、MEGAパックというのがあるのである。ボーリングにカラオケ、スポッチャ(+数百円がかかる)などすべての施設が、フリータイムでなんでもできるという、夢のようなプラン。たぶん行くときが人生で唯一のラウワンだろう僕は、せっかくならこのプランで、全部をいっぺんに堪能したいと考えていた。しかしこれは客が少ない平日だけのサービスなのである。つまり今回の平日休みこそが、僕の夢を実現する千載一遇のチャンスなのだった。しかしこれまでそうやって夢想していただけの事柄が、いざ具体的に実行可能になってみたら、その次の問題が眼前に立ち塞がった。これこそが真の問題と言っていい。誘う相手がいない、という問題である。なにぶん平日なので、世間の勤め人は働いているために誘えない。もっともそれは僕にとってはなんの障害にもならない。「世間の勤め人」に友達はひとりもいないからである。なので誘うとしたら同じく休みである職場の人間ということになる。しかしこれもまずい。なぜまずいか。僕には職場に友達はひとりもいないからである。そうなのだ。平日休みだろうが、MEGAパックだろうが、関係ないのだ。僕にはすべての時空において友達がひとりもいないので、ラウワンに行けるはずがないのである。これまでも「ラウワンに行けなさ」というのは感じていたけれど、今回は行こうと思えば行ける状況を与えられたために、今までよりも踏み込んだ境地で、「ラウワンに行けなさ」を感じることになった。僕は、たとえ平日の休みが与えられても、ラウワンに行けないのだ。ラウンドワングリラには結局、徳を積んだ偉いお坊さんしか行けないのだ。そのことを痛感し、とてもつらい気持ちになった。親鸞聖人に救いを求めたい。そうか。僕はひとりでラウンドワングリラに行けばよかったのか。たとえひとりで行っても、僕は親鸞とふたりで行ったことになるのだから。ああ、親鸞とバブルサッカーしたかったな。
 ラウワンに行くことのかなわなかった僕は結局、午前中をどう過したかと言えば、大方の予想通り、プールに出向いた。せめて水泳という趣味が出来ていてよかったと思った。しかし平日の午前中のプールは、普段の平日の夕方でもそれなりにそうなのだが、そこへ輪をかけてお年寄りの坩堝で、さすがの密度の高さになんとなく辟易した。水泳をすることで、エクササイズと同時にリフレッシュと言うか、そういうものを求めているのに、ちょっとどうにもそういう清廉さからはかけ離れすぎた環境だった。たっぷり時間はあったのに、ともすれば平日のときよりも短く切り上げた。
 少しスーパーで買い物をして帰ったら昼前で、じきにファルマンとピイガも帰ってきたので、温かいそばを作って食べた。3時ごろになり、下校してくるポルガを、ピイガと家の前の道まで出迎えに行った。この日に行なったことは以上である。こうして稀有な平日休みが終了した。こんな機会がなければ痛感しなくて済んだなにかを痛感するだけの休日だった。晩ごはんはサバの味噌煮。肉は嫌で、魚がいいけど、塩焼きの脂っこささえも避けたくての選択。美味しくいただけた。
 金曜はこんな結果に終わったが、4連休(なのは僕だけだが)のイベントとして、土曜日は出雲の義父母や明石の義妹一家が岡山にやってきて、1月に亡くなった祖母の墓参りをする、というのがあるのだった。それ自体は別に心が躍るものではないが、その際に昼ごはんでレストランに行こうという話になっていて、わーいレストランだ、と僕はそれをとても愉しみにしていた。お店のホームページを眺めて、なにを頼むか数日前から考えていたほどだった。
 ところがこの日の夜中になって、ポルガの体調がとうとう崩壊し、ひと晩中、上からも下からも出る、みたいなことになる。腹具合に関して兆候はあったが、よりにもよってこのタイミングでかよ、と思う。僕は寝かせてもらったが(初めて2段ベッドの上段で寝た)、ファルマンは付きっきりで看病し、ヘロヘロになる。朝になって病院に行くが、そのときにはもう、出すものは出しきって、体力はなくなって元気がないけれど、かと言って病院でどうこうできるもんじゃない、あとはもう安静にして回復を待つしかない、という状態になっていた。もちろん墓参りや、ましてやレストランになど連れ出せようはずがない。仕方なく我が家の不参加が決定する。なんてこったよ。せっかくの4連休。せっかくのレストラン。なんてこったよ。さえないな、まったく。ポルガはだんだん元気になっていったが、出掛けるわけにもいかないので、昼はうどんを啜り、ダラダラと過した。晩ごはんは鶏そぼろと玉子の2色丼を作る。ポルガは引き続きうどんの予定だったが、そぼろ丼を寄越せと言うので与えてやった。とても順調な回復ぶりで、こいつは本当に、今日の前半だけがピンポイントで駄目だったんだな、と思った。従妹と遊びそびれたことなど、本人はポロポロと涙をこぼして悔しがっていたけれど、泣きたいのは周りの大人たちだ。
 明けて今日、4連休の最終日である。午前中に、注文していたドライブレコーダーが届いた。ずっと前から買おうと話していて、来週に出雲に行くので、その前に設置しておこうと、とうとう注文したのだった。いろいろ見た結果、バックミラー一体型のものを選んだ。取り付けた後、試運転も兼ねて一家で買い物に出る。100均やスーパーなど。ドラレコはなかなか鮮明な映像が撮れていた。ファルマンに「ドライブレコーダー稼働中」のステッカーは貼るのかと訊かれるが、さすがにあれって客観的に見て気分がよくないので貼らない。それにしてもドライブレコーダーに限らず、昨今の隠し撮り、隠し録音のニュースを見るにつけ、世の中から性善説は完全に駆逐されたのだな、と思う。
 午後はファルマンが仕事をしていて、子どもたちは遊びに盛り上がっていたので、ファルマンにだけ断って、そーっとプールに出向いた。おとといのあの失敗に対し、この時間帯は非常によかった。人が少ないし、ちょっと西に傾いた自然光が窓から降り注いで水の底までをも輝かせ、とても気分よく泳ぐことができた。週末に来るとしたらこの時間なのだな、と学習した。
 晩ごはんはほうれん草と豚肉のオイスター炒めと、手羽先と野菜の中華スープ。ひと泳ぎして、ビールも飲まず、野菜たっぷりのメニュー。何を隠そう健康診断はいよいよ明日なのだ。果たしてどんな結果が出るか。これだけ健康に留意して数値を愉しみにしていたら、それどころじゃない大病が発覚した、なんてオチの、ひと月かけた壮大なネタフリにならないといい。
 そんな4連休だった。なんとも茫洋とした4連休だった。書店員時代の僕が見たら血の涙を流してもったいながりそうだと思う。しかし、じゃあお前ならどんな4連休を過したかね、という話だ。お前だって友達はひとりもいないじゃないか。東京に住んでいて、子どももいなかったくせに、別にどこへもアグレッシブに繰り出さなかったじゃないか。休日があるかどうかは関係ない。お前はずっとそうなんだよ。お前は、ずっと、そうなんだよ。