めっちゃ家族

 土曜日は午前中にポルガの土曜参観があり、休みだったので、まあ見とくか、という感じでひとりで行ってきた。小学校3年生の授業風景は、とにかく「男子がうるさい」の一言で、頭がくらくらした。この「うるさい」というのが、ただひっちゃかめっちゃかで授業を妨害する感じならば、教師側としても対処のしようがあるのだろうが、タチが悪いことに、3年生の男子たちは授業内容に対して前のめりで、そしてあまりにもうるさいのだった。教師の問いかけに対して、手を挙げながら既に大体の内容を口に出しているし、他の生徒が当てられて答えたあとにもさらに手を挙げ、当てられたらほぼ同じことを堂々と答える。なんなの、と思った。この生きものたちは、自分たちの見苦しさというものを、客観的に省みたり一切しないの、と思う。しかし頭がくらくらしたが、もしかしたらこれが現代教育の目指す姿なのかもしれない、とも思った。理屈が通っているとか、品性があるとかじゃなく、世の中は結局、恥も外聞もなく大きな声で主張をする者が、往々にして得をするようになっている。それは国際社会でもそうだ。だからそういうことができる人間を、国は育てようとしているのかもしれない。だとしたらなんと嫌な世界か。貞節の美徳はどこへ行ったのか。ポルガはその中にあって完全に一線を引いていて、「分かる人?」的な問いかけに対して手を挙げないのはもちろんのこと、「風鈴を見たことがある人?」「じゃあ、ない人?」というアンケ―ト案件でもどちらにも手を挙げないという姿勢を見せ、参観に来た父親を安心させた。嫌だわー、ああいう教育。質じゃなくて積極性だけが評価される世界。暗澹たる気持ちになった。
 そのあとはクリニックに寄って、予約していた今年のインフルエンザワクチンの予防接種を受ける。まだ2年前の一家全滅の記憶が強くあるため、逡巡なく受けるのだった。僕のあとにやってきた5歳くらいの男の子が、ヤラセのような、ドラマのような、「注射に泣き叫んで抵抗する子ども」の様を見せ、おもしろかった。それに較べて僕は少しも泣いたりせず注射を打たれたので、とても偉いと思う。
 ポルガが帰ってきて午後は、当初の予定ではまたプールかジムへ行こうと思っていたのだが、予防接種のあと「今日は激しい運動はしないように」と言われ、そう言えばそうだったー! と計画が狂い、仕方がないので家族で図書館と100均に行った。
 明けて今日は、待ちに待ったイベントの日。2年ほど前からずっと僕が言い募っていた、兵庫県の南東方面に住むファルマンの妹一家と、岡山の我々一家が、それぞれの中間地あたりの公園で落ち合って一緒に遊ぼうよ企画が、とうとう実現と相成り、赤穂市は赤穂海浜公園へと繰り出したのだった。なにしろ起草から決行までずいぶん年月を要したので、今日という日に僕はとても喜びを感じており、張り切って早起きして、前夜から味を付けていた鶏肉を揚げ、おにぎりを握り、8時前に家を出た。公園までは車で1時間半ほどで、ほどよいレジャー距離だった。30分ほどあとに到着した妹一家も、所要時間は同じようなものだったそうで、だとすればこれはやはりとてもいい中間地スポットだと改めて思った。赤穂海浜公園は、海に面した、とても規模の大きな公園で、園内には池、原っぱ、アスレチック、子供向けの遊園地、小規模な動物園、海洋博物館など、いろいろな施設があり、とにかく広い。ポルガはこういう場所に来るといつも発動する「全部やる」が、さすがにままならないスケールの大きさに、興奮しすぎて半ばバグっていた。
 妹一家とは、夏休みの実家以来の再会で、義妹の夫を見ると、どうしてもあの日のカープ戦のことを思い出さずにはおれず、悲痛な気持ちになった。向うの娘(4歳)は、その夏の時から、長らく続いていた人見知りが緩和していて(なにぶん春から幼稚園に通うようになったので)、接しやすくなった。今回も自力では上がれない遊具に、持ち上げて乗せてやるくだりも、抵抗することなく受け入れていた。よかった。キャラクターは相変わらず、下の子がいないこともあるのだろうが、オーストラリアの固有種のように、平和でのんびりした感じで、そのサイドにポルガとピイガが並ぶと、うちの子がやけに激しい生きもののように感じられた。絵のタッチがぜんぜん違うのだった。
 まずひとしきりアスレチックで遊んだ後、まだ11時前だったがみんなが空腹を訴えたので、野原にシートを敷いてお昼にした。食べたらそのぶん荷物が軽くなるので、そういう意味でも早めに食べるのは得策だった。外で食べるおにぎりはおいしかった。天候は上々で、とんびが飛ぶ空には、秋らしい雲が浮かんでいた。日なたではポカポカと暖かく、日陰では涼しい、とてもいい陽気だった。義妹は語り草になるほどの雨女なので、今回の計画もそれが懸念としてあったのだが、やはり僕の普段の行ないの良さが、義妹のそれを相殺して余りあったようだ。
 食べてエネルギー補給をしたあとは、子ども向け遊園地のエリアに入る。ゴーカート、スカイサイクル、観覧車あたりがメインで、あとはボールプールとか迷路とか、ちょっともう8歳のポルガには訴求が弱いような、そんな陣容の遊園地で、まずファルマンとピイガがゴーカートに乗った。これはピイガが乗りたいと言い、ファルマンは僕に相手を頼もうと思っていたようだが、ファルマンに運転させるのが愉しそうだと思った僕は、「ここまで来る行きも帰りも俺が運転するのだから余計な運転なんかしたくねえ」と、免許を持たないファルマンの居た堪れなさを刺激する感じで拒んで、ファルマンにやらせた。その結果、猛烈すぎるスタート、そのあとの超低速運転と、分かりやすくダメダメな運転風景を見ることができ、満足した。その次は僕とポルガでスカイサイクルに乗った。これには数年前、池田動物園でもポルガと乗った。これの特徴として、見ている分には怖そうに見えないのだが、乗ってる側はやけに怖い、というのがある。だから乗って怖がってる奴を見ると、「えっ、どうしたの? はしゃいでんの? ウザいの?」みたいな感じになる。どこまでも得をしない乗り物なのだ。今回もやはりそんな感じだった。そして最後は観覧車。どうせ来たからには乗っとくべきだろう、みたいな心の作用で、一家全員で乗った。ホームページで見て想像していた観覧車よりはだいぶ立派な大きさで、全体の4分の1くらいまで行った時点で、ちゃんとしっかり怖くなった。4分の1くらいでそうなったときの絶望感は大きい。だってそれからまだずっと怖いのだ。少なくとも4分の3を過ぎるまでは怖いのだ。飛行機と一緒で、「なんで乗る選択をしたのか……」と、後悔が募る。本当に僕は何度もこの後悔を繰り返す。高い所、だいぶダメな人の部類なのに、乗る前はそのことを失念してしまう。記憶力と想像力が欠如しているのではないかと思う。観覧車はなんとか無事に地上にたどり着いた。命拾いをした。
 遊園地を終えたあとは、とても広く、そして貸し切り状態の原っぱで、バトンを回したり(わざわざずっと背負って歩いていたのだ)、向うの一家が持ってきたバドミントンやフリスビーをしたりして遊んだ。もっともバドミントンもフリスビーも、ぜんぜんラリーは続かず、正規のスポーツとしてのエキサイトは一切なく、まあしかし子どもはゲラゲラと愉しそうにしていた。投げたフリスビーに向かって一斉に駆けていく様は犬のようだった。
 それから海を見たり、園内を軽く一周する感じで歩いたりして、入り口に戻る。互いの帰り道のこともあるので、3時前だったがこのあたりでお開きとした。子どもはまだまだ躍動していたが、それはエネルギーが切れたら寝るまでの子どもだからで、大人たちはもう、なんだかんだでそれなりに降り注ぐ陽射しもあり、「もうもう、もうだよ」という感じにしっかり仕上がっていた。というわけで駐車場で解散。ずっとしたいと思っていた、期待を高めまくっていた公園遊びは、しかし期待を裏切ることなく、きちんと愉しかった。つまり大成功だ。本当に時期と気候がよかった。今回、海洋博物館へは行かず、ポルガがブーブー言っていたので、立地の良さも確認されたし、またそのうち同じ形で遊びに来ようね、と約束した。
 そして1時間半ほどかけて帰る。夕飯のビールがおいしかった。