冬山陰

 寒波がやってきて、日本海側を中心に積雪となった週の後半。土曜日の朝、車には数センチの雪が乗っかっていた。あのぽかぽか陽気だった鳥取旅行から約1ヶ月。実に冬である。
 去年まで山陽で暮していたわが家には、子どもたちが雪の日に履く、本格的な防水のブーツがないということで、今週はそれを買いに行く。本当に給付だ。現金でもクーポンでもいい。どっちにしろ子どもにばかりお金を使うじゃないか。
 ショッピングセンターは、なにぶん子ども用品フロアだったため、クリスマス商戦で大いに賑わっていた。各人がおもちゃを抱えて並ぶレジの行列は、穿った見方をしようと思えばいくらでもできるけど、まあ幸せな風景ということで、短絡的に眺めればいいと思った。目的のブーツは、僕自身が雪国の経験がないため、あまりイメージが浮かばずに買いに行ったのだが、想像していたよりだいぶ長靴寄りの、なるほどそういうものか、というようなものだった。岡山の靴売り場ではついぞ目にしなかったな。そこでポルガは選んで買ったが、ピイガはどれを見せても拒んで、結局買わなかった。どうやらブーツという言葉に、これまで岡山で冬場に履いていたような、ムートン的なものをイメージしていたようで、質実剛健すぎるビジュアルに、納得がいかなかったらしい。次女は女子だ。ファルマンが小さい頃、父親が「城に連れてってやる」というので、ディズニーアニメを観て育った少女ファルマンは、当然シンデレラ城のようなものを想像し愉しみにしていたら、見せられたのは松江城だったのでとてもショックを受けた、という出来事があったそうだが、そのエピソードに通ずるものがあるかもしれない。現実は質実剛健なんだよ。
 買い物のあと、昼ごはんは実家が牛丼のテイクアウトをするけど一緒にどうだと誘ってくれたので、立ち寄ってご馳走になる。ありがたくはあったが、実家は犬がいたり、両親がワーワーしていたりで、少しの滞在でけっこう頭がぐわんぐわんになる。横浜に帰らないことにした年末年始について、どうするんだと問われたので、まあ年始にでも顔を出しますわ、と答えておいた。大みそかにお店の蕎麦を取るからそっちの分も取ってやる、あの店のだ、食べたいだろ、といわれ、やんわりはぐらかしたが、僕はその店の蕎麦があまり好きではないので、お断りしようと思う。おいしいといわれるお店から取ってくる蕎麦より、家で茹でた乾麺の蕎麦のほうがおいしいと思うんだよな。
 帰宅後は、ピイガの学校のジャージのズボンに、ゴムテープを縫い付ける作業をする。学校指定のジャージというのがあるのだが、これが「嘘だろ!?」というくらい高くて、ポルガのものはそれでも、ふたり着るからという理由で(忸怩たる思いで)買ったのだが、1年ないし2年の、それも冬場しか穿かないピイガのそれはどうしても、どうしても買えず、よほど特殊で手が掛かっていそうなものならともかく、紺色に両サイドに明るい色のラインが入っているだけの、なんの変哲もないジャージなので、ちょうどそれ!というものは見つけられなかったが、紺色だけのジャージを買い、それにテープを縫い付ければいいだろ、ということになったのだった。既に出来上がっているジャージの、腰から裾までに、まっすぐに細いテープを縫い付けるなんて芸当が、果してできるだろうかと若干の不安はあったが、まあさすがですよね、ちょっとの模索の末、とても上手にできましたよね。ポルガの正規のそれと較べても、ぜんぜん遜色ない出来映え。はじめにやった左側よりも、あとにやった右側のほうがさらに上手になっていて、別に儲けたいわけではなく、スキルがもったいないので、この地域の、一部の土着の業者を既得利権で儲けさすだけのあんなジャージに大金を支払わねばならない家庭の方に、500円くらいでこの作業をしてやりたいと思った。
 夕方から夜にかけては、今日はもちろんM-1グランプリですよ、と、今日の朝まで本当にそう思っていたのだが、テレビ番組表で、予約録画のためにM-1を選ぼうとしたところで、今晩のラインナップのどこにもM-1の文字がなく、あれ、今日じゃなかったっけ? と本気で5秒くらい思案したのち、気づいた。
 うち、テレ朝とテレ東、映らないんだった。
 山陰って、そうなんです。実家は、衛星だかなんだかで特別な契約をしているから観られるのだけど、そういうことをしていないと、普通に映らない、「一部の地域を除いて」の一部の地域なのだった。なんかもう民放が3局しかないのがすっかり当たり前になっていて、また一方で、「かりそめ天国」などの観たい番組はTVerで観たりするするので、テレ朝とテレ東が映らないという現実のことを、完全に忘れていた。そんなわけで、普通に観られない。M-1観られないんだ!? とちょっと衝撃を受ける。残念。