週末

 7月に入る。夏だし、1年の後半スタートという思いもある。そうか、正月から、もう半年が過ぎたのか。正月は遠い昔のような気もするし、ついこないだのような気もする。人生はこれの百五十回くらいの積み重ねか。
 相も変わらず、ひたすら家族で週末を過す。そういう宗派のご家庭なのかしら、というくらい、家族以外の人間と交流を持たない。正解はただ友達がいないだけだ。
 土曜日の午前中は、買い物に出た。買うものリストには、洗顔せっけん、ボディーソープ、歯磨き粉、ハンドソープ、洗濯洗剤、食器洗剤とあって、ここまで家のシャボン系物品が同時に買い替えのタイミングを迎えるのって、ちょっとした奇蹟ではないかと思った。
 午後は、しばらく家の用事を済ませたあと、子どもたちを連れてプールに繰り出す。時期になったので海水浴もありなのではないかという思いが少しだけ浮かんだが、行っているプールがまあまあのレジャー要素のあるプールということもあり、果たして海ってプールよりも愉しいのか? という疑念が頭をもたげてしまい、いざとなるとなかなか足が向かない。シャワーとか、脱衣所とか、砂とか、陽射しとか、そういったいろいろな面倒ポイントのことを思うと、海水浴とはだいぶハードルの高いレジャーであると思う。せっかくだから7月中にいちどは行きたい気もするが、プールにさえ行かないファルマンが賛同するとも思えない。まあ実際、プールでいいかもしれない。この日のプールも愉しんだ。ピイガの世話があるので個人的なスイミングはできないが、年会員なので心にゆとりがある。半月ほど前の週末に来たときにも人が増えたな、と思ったが、今回はますます増えていた。男女混合のグループで来ているらしい中学生集団がいて、男子のテンションの高さが異様だった。迷惑といえば迷惑だったが、でも解るよ、と思った。テンション上がらいでか。
 帰宅して、晩ごはん。鶏肉の天ぷらを揚げて、天ざるにして食べる。おいしい。
 プールに行かなかったファルマンは、マイナポイントのことをせっせとやっていたらしかった。手続きをすると、ひとりあたり15000ポイントゲットらしい。なんだそれ、と思う。とりあえず嬉しい。僕はポイントの振込先をペイペイにしてもらった。そして次の日の朝、起きたらペイペイの残高が15000増えていた。速い。こういう機敏さはペイペイのいいところだな。ちょうど欲しいと思っていたものがあったので、買わせてもらうことにした。
 昨日が買い物やプールでバタバタしたので、日曜日は外出せずに家でしたいことをして過ごそうと考えていた。考えていたのだが、10時あたりになんの前触れもなく停電が起ったため、出掛けざるを得なくなる。停電なんていつぶりだろう。原因は今もってよく分からない。スマホで電力会社のページを確認すると、なるほど居住地のエリアが停電情報の欄に載っていた。なにぶんエアコンがなければ熱中症になってしまうような気候である。たまらず車に乗り込んだ。冷蔵庫のことは心配だったが、そこまで長引かない限り大丈夫だろう、とにかくドアを開けて今ある冷気を逃さないことだ、と思った。
 イオンに行った。停電による暑さを逃れてイオン。実に一般庶民的な行動パターンだな。それでしばらく書店やおもちゃ売り場を冷やかしていたら、やがて停電情報の範囲はどんどん狭まっていき、最終的にはすっかり消失した。すなわち復旧したらしかった。なのでついでに食料品の買い物を済ませ、帰宅した。電気は無事に正常になっていた。
 昼ごはんを済ませ、午後は縫い物と筋トレをして過した。最近またバトン熱が高まっているのだけど、バトンを回すのにふさわしくない季節だ。うまくいかない。
 晩ごはんはアクアパッツァ。イオンで「アクアパッツァ用」として魚介類の盛り合わせが売っていたので、いいなあと思って購ったのだった。作ってみたら、実によかった。サーモン、いか、えび、ムール貝に、ブロッコリー、ナス、プチトマト、しめじを加え、仕立てる。そんなんおいしいに決まってるじゃん。これも停電のおかげだね、なんて言いながら喜んで食べた。この最中、ファルマンがアクアパッツァのことをどうしても覚えられない、ということが判明し、僕とポルガでいじりまくった。ファルマンのこういうところが大好物なところを、ポルガはしっかり受け継いだ。どうもファルマンは、今日初めて知ったこの料理を、前半部と後半部に分かれた言葉で、水産物っぽいニュアンスが含まれていた、とぼんやり認識したようで、「おいしいねえ、マリントッツォ」と言ったのだった。食卓に衝撃が走った。これもまたしっかり記憶できていない横文字としての「マリトッツォ」(わが家は結局いちども食べなかった)の影響を色濃く受け、そこに無理やり海の要素を入れてきたらしく、間違え方に技巧が光る。意図的にこんなボケはできない。さすがだ。そのあと「アクアパッツァだよ!」とみんなから突っ込まれ、「ああ、ああ。アクアパッツァね。もう分かった」と言うので、3分くらいした後に「この料理ってなんて名前だっけ?」と訊ねたら、「マリン……トッツォ?」という答えだったので、これはちょっと引いた。だいぶ笑えるレベルを超えてきた。
 まあそんな、家族でのんびりと過した週末だった。夜はいつものように鎌倉殿をファルマンと晩酌しながら眺めた。その際に「晩ごはんおいしかったね。なんだっけ?」と訊ねたところ、「……アクアテッシュ?」という答えだった。どうやらファルマンの言語中枢に「パッツァ」は存在し得ないようだ。不憫。