頼家気分

 今日は松江で行なわれる催しに子どもを連れていかねばならなくて、でも都合の悪いことに僕はこの土曜日が会社カレンダー的に出勤だったので、事情を話したところ義父母がレジャーがてら連れてってくれることになった。
 なったのだったが、わりと直前になって、やっぱり仕事はお休みということになった(土曜日はなんだかんだでこうなることがある)。そうなると、にわかに僕も松江行きの目が出てきた。しかしながら、子どもを催しに連れていくのが当初の目的であったものが、ファルマンによると義父母はもうだいぶ孫との松江行きを張り切っているらしかったので、いまさら「やっぱりいいです」と言えようはずもなく、だったら僕も飛び込みで参加というのはどうだろうと思ったが、残念ながら義父の車は5人乗りなのである。僕が乗る余地はない。僕のフリードならば6人乗りだが、なんかどうも、「俺の車で妻と娘と孫娘を乗せて松江行きだぜ」と意気込んでいるだろう義父に、僕も参加するんで、6人になるんで、僕が運転しますから、僕の車で行きましょう、ということを伝えたら、義父は拒絶するわけにもいかず、「……うん」と哀しそうに返事をして、そして助手席でずっとちょっと愁いを帯びた表情を浮かべ続けるのではないかという気がして、そんなことに思いを巡らせた結果、これはあれだな、俺は源頼家だな、あのまま死んでいれば丸く収まったものを、にわかに息を吹き返したりしたからややこしくなってしまったということだな、という結論に至り、結局どうしたかと言えば、ファルマンとの協議の末、今日の僕の仕事が休みになったことは、義父母には秘匿することにした。ちなみになんで僕は松江に行きたがっているのかと言えば、本当にただ一点、松江イオンのパンドラハウスでニット生地を買いたいから、というだけの理由であり、それに対して義父は、せっかく孫と松江に行くのだからと、いろいろ立ち寄るスポットを挙げているそうなので、本当に頼家と一緒、にわかに息を吹き返したりしないほうが全員しあわせなのだった。
 というわけで午前の、義父母が車でわが家に迎えに来る予定時刻の少し前に、アリバイ作り的な感じで、僕はフリードに乗り込み、街に出た。おろち湯ったり館という考えも、当然ちらりと脳裏をかすめたのだけれど、昨晩にプールに行ったのと、前回から間が詰まりすぎているのと、なにより12月から2階が閉鎖されているのとで、どうも意欲が湧かず、本当に義父母によるファルマンたちのピックアップの間をやり過ごすためだけの、日常的な買い出しに終始した。帰宅後は、ひとり買って帰ったブロック肉で煮豚を作り、昼ごはんはうどんを作り、食べ、そのあとはショーツを作ったり、HIITをしたり、なんかまあ、そんな感じで過した。なんとなく地に足がつかない、時間を潰すために過しているような、そんな過し方になってしまった。たぶんそれは、義父母に対し、僕がこの日中に家にいるのが秘匿事項だからで、まったく善良な人柄だなと我ながら思うが、そのうっすらとした後ろめたさによる作用だろうと思った。ファルマンたちは夕方に帰ってきた。愉しかったそうで、なによりだと思った。僕が闖入していれば、そうはならなかったに違いないと思った。