久々連休

 1月は前半に休みを大量消費してしまい、その帳尻合わせのように後半は出勤の土曜日ばかりが続いていた。たぶんこれは、完全週休二日制じゃない会社あるあるだろう。だからとても久しぶりの3連休に、テンションは高かった。
 そのようなわけで、初日には行かねばならぬという使命感から、おろち湯ったり館へと繰り出した。前回、日中に行ったらプールに人が多いしサウナはまだ熱くないしで微妙だったので、やはり夕方から夜にかけてがいいだろうということで、温め直せばいいように晩ごはんを作っておき、ひとり17時くらいから雲南へと車を走らせた。2月ながら、道の心配はまるでない。つまり暖冬だったかと言われると、普通に寒かったわ! と反論したくもなるが、やはり雪は少ない冬だった。しかしいつに降ったものか、湯ったり館の駐車場の一角には、雪が集められ積まれていたので驚いた。
 晩ごはんどきに差し掛かった湯ったり館はもう混雑のピークを超えているだろうと目論んでいたのだが、中に入ると意外と人が多かった。多かったと言っても、もちろん横浜の実家近くのスーパー銭湯のような、ギャグマンガ日和のようなレベルではぜんぜんないのだけど、空いているだろうと当て込んでいたので、ちょっとショックだった。サウナ内での常連客同士の会話によると、どうやら今年の冬から冬時間営業というものが制定され、閉館時間が1時間前倒しになっているため、それで人が多いのだということだった。「ほんにろくなことせん」とその常連客はぼやいていた。その人は、何ヶ月かにいちどくらいしか来ていない僕が、それでも顔を覚えているような、おそらく毎晩ここで風呂に入っている人なので、人生の調和が崩れたほどの出来事なのだろう。でもサウナはしっかり熱かったし、男湯が広いほうの週だったしで、まあまあよかった。2階にはもちろん上がれないのだけど、1階の露天の脇のベンチで外気浴をしていたら、冬の山陰名物の、降るとも降らないともない霧雨のようなものが降ってきて、それを全裸で浴びるのもまた悪くなかった。
 しかし今回のおろち湯ったり館の主目的は、なんと言ってもプールなのだ。なぜならホームプールが冬の休館および、今年はそれに併せて大規模な改修工事も行なうということで、春まで閉まっているのである。そのため実はもう既にしばらく泳げていないし、今後もまだだいぶ水泳になかなかありつけなそうな情勢なのである。普段は、25mよりも短い湯ったり館のプールには、こちらはこちらで独自の魅力もありつつ、しかし泳ぐという行為そのものに格別な感動というものはないのだが、今回はそんな事情なので、なんてったって久しぶりに泳げるというのがとにかく嬉しかった。やっぱり泳ぐと、泳ぐことでしか得られない刺激が体に来て、気持ちがよかった。
 そんなわけでわりとしっかりと堪能できた、今回の湯ったり館であった。やっぱり夜だな。次に行くのは3月中旬から下旬頃か。2階の閉鎖が終わり、そして桜が咲き始めるような、そんな頃に行けたらいい。
 帰宅して、ひとり遅めの晩ごはん。メニューは野菜とソーセージのトマト煮と、合い挽き肉をたっぷり入れたオムレツ。もう完全に赤ワインに照準を合わせたメニューじゃないか。そのとき傾倒している酒に合わせて、作る料理というのは変化するようだ。サウナのあとの満腹と酩酊で、3連休の初日にふさわしい、よい心地の夜だった。
 2日目の朝、ポルガが風邪を発症する。連休中なので病院に行きづらく、どうしたものかと危ぶんだが、いまこの日記を書いている3日目の晩の時点でだいぶ回復し、普通のごはんを食べているので、コロナでもインフルでもなかったようである。それ自体はもちろんよかったのだが、なんてったってポルガは普段の生活態度があまりにも悪い(夜更かし・薄着・部屋がゴミ屋敷のよう)ので、体を壊すのもなるべくしてなった感があり、今後は少しでも悪行を改めてほしいと切に思う。切に思うのだが、中学生ってマジで言うことを聞かないし反省もしないので、始末に負えない。
 ポルガがずっと部屋で寝転がっていたこの日、他の人間はどう過したかと言えば、ファルマンは仕事とポルガの世話をし、僕とピイガはクッキーを焼いていた。今年はなぜか急に、この3連休というものはバレンタインのお菓子を作るのに最適なタイミングなのだなあということを思い、クッキーを焼くことにしたのだった。たぶんこれは、バレンタインは女から男へチョコを捧げるもの、という固定観念が、現代の時流に合わせて、僕の中でやんわりと破壊されたということだろう。おっさんのパンツがなんだっていいのだ。
 せっかく作るのだから、きちんとおいしいものをいい感じに作りたいと思い、実はこの半月ほどせっせと準備していた。クッキーの型や包装、アイシングの材料などを取り揃え、平日の夜に試作で焼いてみたりして、ファルマンを慄かせたりした。その果以もあり、なかなか満足いくものができた。


 これはごく一部で、バターは丸々ひとパック、200gを使うような分量で、オーブンで4回に分けて焼くほど焼いた。アイシングは100均のものに加えて、粉糖と着色料で手作りもし、8色ほど作った。ピイガはイラストを描くように、なかなか上手にやっていた。僕はいざやってみたら、アイデアがなにも浮かばず、ヒット君型クッキーに顔ばかりを描いた。ヒット君型は、オリジナルのクッキー型ってどうやって作ればいいんだろうと検索し、牛乳パックで作ればよいのだという知見を得て、実行したものである。なかなかかわいらしい、商売っ気のある、と言うかこういう人のキャラクターの形のクッキーって既に世の中にいくらでもあるよな、という感じのものができた。
 食べたら普通においしい。クッキー自体の甘さは控えめで、アイシングでちょうどいい具合になった。アイシングは、アイデアもさることながら、絞り袋が途中でぐじゃぐじゃになったり、思うような線が描けなかったりで、少し悔しさが残った。でもこれは、やればやるほどどんどん手慣れるタイプのやつだな、という感触を得たので、また1年後と言わず、気が向いたらやりたいと思う。
 翌日、袋に詰めたものを実家の面々に渡し、さらには横浜へも宅配便で送った。人にあげるのは、本当にそれだけである。冷静に考えると、なんとまあ他者と交流しない一家なのか。つながりというものが、あまりにもない。いやまあ、多少つながっている程度の人から手作りクッキー(それもアイシング掛け)をもらっても、絶対に食べないけどさ。
 3連休はまあそんな、おろち湯ったり館とクッキー作りがメインで、あとはいつも通り、ミシンをしたり筋トレをしたり、酒を飲んだりして過した。久々の連休を十全に堪能できたかと訊かれると、それに対して自信満々にイエスと答えられるのはいったいどんな人間だ、と問い返したくもなるが、ずっとしなきゃいけないと思っていた布置きエリアの掃除もできたし、まあそこまで悪くなかったんじゃないかと思う。連休明けからは春らしさが出てくるという噂もあり、愉しみにしている。前途が愉しみだなんて、すばらしいじゃないか。いや、それはつまり今現在を憂えているということだから、もしかしたらぜんぜんすばらしくないのかもしれない。とにかく早く寒くなくなってほしい。