広島旅行2022浅春 ~39歳の目覚め~

 日付が変わってファルマンの誕生日になった、その1時間後あたり、ファルマンは物音で目を覚ましたという。それは隣室から聞こえてきているようで、はじめはなんなのか判らなかったが、繰り返される一定のリズムの正体に、ファルマンはやがて思い至ったという。そしてリズムは次第にペースを上げ、やがてフィニッシュを迎えたそうだ。ファルマン、39歳になって最初に起った出来事がこれ。これからの1年間を暗示しているのだろうか。
 そのめっちゃおもしろい事態の間、ぐっすり眠っていた僕は、いつものように6時過ぎに目を覚まし、家族を起こさぬよう準備をして、朝風呂に向かった。気持ちがよかった。とてもいい目覚めだった。ドーミーインを心ゆくまで堪能した。
 チェックアウト後は、ビル街の中を車で進み、広島城へとやってきた。そっち方面は本当に詳しくないので、広島に城があるなんてこれまで知らなかった。ならばなぜ来たかと言えば、ポルガが、今年の初詣から御朱印帳を始めたことで神社や城に興味を持ち始めたため、広島城で御城印をもらう(買う)というイベントが旅行に組み込まれたのだった。ちなみにもちろん昨日の厳島神社でも御朱印を書いてもらっていた。
 案内された少し遠い市営駐車場に車を停め、歩いていくと、広島城のお膝元には、広島護国神社という神社があり、桜がちょうど満開の晴れた大安の日曜日ということもあって、お宮参りやら祈祷やらの人々でとても賑わっていた。なんならあとでこちらでも御朱印をもらおうと話しながら、まずは広島城へと入城する。中は5階建てくらいで、当時の文化や道具などが紹介される、博物館のようになっていた。最上階の天守閣では、建物の外側に設置された通路で360度を見渡すことができ、なかなかいい景色だった(もっと高い建物が周りにあったけど)。昨日行った宮島も見えた。城を出たあとで、やはり護国神社にも立ち寄り、参拝したり、御朱印をもらったりした。つまり今回の広島旅行で、ポルガは新たに3枚分をゲットしたのだった。御朱印帳、なるほどコレクター心というか、スタンプラリー心というか、そういったところを刺激されてなかなか愉しそうだ。ただ旅行するより、旅行先のそういうのを目的にすると、より面白みが増すだろうと思う。
 広島城からは、歩いて次の目的地、原爆ドームや平和記念公園のエリアへと向かう。幸いなことに、このあたりは徒歩圏内なのである。ちょっと歩いて、大きな道を渡ると、すぐ目の前に原爆ドームがあった。たぶん子どもの頃も見て、修学旅行では確実に見て、そのためおそらく3回目になると思うが、やはり迫力があり、そこだけ空気の質が違っているような気がした。世界遺産であり、有名スポットだが、観光地と無邪気に言うわけにもいかず、子どもらを前に立たせて写真というのもどこか違う気がして、ふむー、と粛々とした気持ちでしばし眺め、先に進んだ。先には平和記念公園があって、花見客でとても賑わっている様子だった。平和記念公園って8月15日の式典でしか見ないので、いつもあんなふうな、かしこまった空間なのかと思っていたが、街の中にある公園として、明るく利用されているようで、なんだかホッとした。なにしろ平和を記念する公園である。平和ならば平和に使えばいいのだ。いま世の中が平和なのかと言えば、あまりそんなこともないけれども。
 園内では大勢の人が、ベンチに座ったり芝生に腰を下ろしたりして、酒を飲んだり食事をしたりしていたので、わが家もここで昼ごはんを食べることにした。公園からの脇道にセブンイレブンが見えたので、お弁当でも買おうかと歩みを進めたところ、松屋の袋を提げている人とすれ違い、松屋があるのか! と色めき立ち、松屋に方針転換した。広島まで来てなぜ松屋、という話だが、実は島根県どころの話ではなく、山陰地方には松屋がないのだ。そのため松屋は十分に、旅先でしか味わえないグルメの要件を満たすのだった。セブンイレブンの向かいには、広島風お好み焼きの店が行列を作っていたが、そんなものには目もくれず、松屋を探し求めて歩く。セブンイレブンの奥には、予想外の商店街が続いていた。阿佐ヶ谷パールセンターを連想するような、この商店街の感じが、やっぱり都会なのだと思った。いろいろな店があり、歩いているだけでおもしろかった。そしてしばらく進んだところで無事に松屋を発見し、牛めし弁当などを買い込む。嬉しい。ほくほくした気持ちで平和記念公園へと戻り、花壇の前のブロックに場所を確保して、食べた。おいしかった。松屋は、一時期(書店員時代だ)あまりにも食べ過ぎて食べられなくなった時期があったが、たぶん僕は牛丼3大チェーンの中で、本当は松屋がいちばん好きなのだ。数年ぶりに食べて、そのことを再認識した。でも山陰にはないのだ。もしかするとそれもまた美味しさの一助になっているのかもしれないとも思う。松屋はおいしく、春の陽気がぽかぽかと暖かく(昨日は実はわりと寒かった)、桜は満開で、とても心地よい時間だった。4月3日はいつもわりと桜が満開で、ファルマンは柄にもなく溌溂として朗らかな、とてもいい時期に生まれたものだと、毎年思う。印象深い39歳の誕生日になったのではないかと思う。
 腹ごしらえをしたあとで、平和記念公園の平和記念公園たる部分を見て回る。原爆ドームほどのピリピリした感じはないにせよ、やはりここもまた、それなりに粛々と受け止めた。原爆資料館へは、入らなかった。修学旅行の代替として来ているので、行くべきなのかもしれなかったが、しかしながらここは、家族と離れ離れの状況で見るべきものなんじゃないかという気もした。原爆資料館を見て、家に帰ったら、原爆資料館を一緒に見たわけではない家族がいるから救われるという、ここはそういう場所だと思った。だから一家で入るわけにはいかなかった。ピイガが修学旅行をする頃には、さすがに県外に行けるだろうから、ピイガはその時に見ることになるのではないかと思う。
 広島旅行の行程はこれでおしまい。宮島、広島城、原爆ドーム、平和記念公園と、とてもオーソドックスに広島の要所を拾った1泊2日であった。大成功と言っていいのではないかと思う。家族旅行はやっぱり愉しいな。しかし鳥取と広島をやってしまったので、次の目的地の当てがない。車で行けて、1泊2日の範囲がいいなと思うが、岡山に行ってもしょうがないし、山口はどうも食指が動かない。いっそ移動を少しがんばって福岡か? いよいよ九州バージン喪失か? とも思うが、福岡はやろうと思うといろいろ大変そうだとも思う。まあどちらにせよしばらく先だ。11月の鳥取は、秋からのレジャーの集大成だったが、今回の広島は、いわばレジャー時期の幕開けを告げる鐘だ。これからは公園やプールや海など、近隣の大自然を堪能しようと思う。