ひとり暮し

 ひとり暮しなので帰宅時間を気にせず、労働終わりにいつもの帰りがけにあるプールではなくて、ちょっと寄り道しないと行けない場所のプールに行った。なぜわざわざそこへ行ったかと言えば、50メートルプールで、屋外だからだ。そして労働終わりに屋外プールということがなにを意味するかと言うと、それは夕闇の中で泳げるということである。もちろん都会にあるというナイトプールのような、ふしだらな施設ではなくて、ストイックなトレーニング用プールである。当然ナイター照明があるため、プールそのものは見通しがいい。しかし暮れ泥む空の下で泳ぐのは新鮮な感覚で、月曜日に初めて行って感動し、木曜日にも再訪した。たぶんこの2回が今年の夕闇プールの全てになるだろう。屋外は夏休み期間中だけの営業なのである。木曜日は気の済むまで泳ごうと張り切り、とうとう1000メートルを泳いだ。いっぺんにその距離を泳いだのはこれが初めてだった。
 更衣室では中学生くらいの少年たちが、わあわあ騒ぎながら着替えていた。話の内容は、たばこと酒とマスターベーションとチン毛とマンコだった。健全だなー、と思った。中学生男子がそれらの話をはしゃぎながらしているのって、なんかすごく健全なことのように思えた。僕は中学生の頃、ぜんぜんそんな話はしていなかった。じゃあどんな話をしていたのかと振り返るが、ろくに覚えていない。もちろん思春期の悶々は始まっていて、マスターベーションだってそれなりに始めていたが、自意識が強く、それは話のテーマとして友達と語り合える次元の話ではなくて、ドロドロと重たいカルマ以外の何物でもなかった。中学時代にあんなに明け透けに性的なことを友達と話せていたら、僕の童貞喪失はもっと格段に早かったし、高校だって男子校じゃなかったんじゃないかと、健全な水泳男子たちを目の当たりにして思った。それにしても中学生男子って、もうダブルスコアどころの年齢差じゃなく、ぜんぜん普通に親子くらいの関係性になってきたのだな。信じられない。悪そうな中学生がいると、どうしても(カツアゲされるかもしれない……)とビクつく心があるのだが、実はもうそれはカツアゲじゃない。オヤジ狩りだ。なんてこったよと思う。
 そんな感じで、ひとり暮しはそれなりに堪能しつつ、しかし3、4日経つとさすがに寂しさ(ひとり暮しスタートのときさんざん寂しさをジョークにしたため嘘くさくなるが、本当の意味で)がじわじわと湧いてきた。とは言え離れる前は本当にうんざりもしていたので、まあやっぱり半年にいちどくらい、こういう期間があるというのはいいことのように思う(ファルマンにはそれがないのです。大変だと思います)。
 現在金曜日の夜で、ここから休みだと9連休で、当初の予定ではそうだったのだが、いろいろあって明日も明後日も出勤である。しかしまあ9連休もあると2日くらいは別にいいよ、という気持ちになる。そこに付け入られた、ともいえる。でも本当に、9マイナス2で7連休って、書店員時代を考えればありえない事態なので、精神衛生上、その心は忘れずにいようと思う。
 労働がそんななので、労働を理由に参加できないということにした島根での外泊も、(本当を言えば参加できるのだけど)、あながち嘘ではなくなった。ファルマンは親に嘘をついたことに忸怩たる思いを抱いていたが、いくらか気持ちが救われただろう。ちなみにファルマンと言えば、昨日8月8日は結婚記念日だった。お互いすっかり忘れていて、ファルマンがなぜか父親から指摘されて思い出したという。そんな11周年だった。
 それにしても「hophophop」にも書いたが、お盆期間中の台風10号の予測進路、マジでヤバくないか。海水浴は完全にもうあきらめたが、問題は野球観戦だ。マツダzoomzoomスタジアム、当該の試合は開催されるのだろうか。今回ずいぶんいい席のチケットらしいのだが、それは義父の勤める会社の福利厚生みたいなやつで、社員内での抽選で引き当てたもので、そこへ今回、妻とふたりの義理の息子という4人で行く予定になっているのである。もう嘱託という身分の義父が再びチケットを引き当てることは今後たぶんもうなくて、息子を持たなかった義父が、義理ながら息子たちと野球観戦ということができる千載一遇のチャンスであり、先日の世羅での受け渡しの際も、「観戦愉しみだな! 昼間っから行って練習見ような!」とキラキラした笑顔で言っていたので、それが台風で中止になったら、なんかさすがにかわいそうすぎて居た堪れない。そう思う一方で、義理の息子Aは、中止なら思いきり中止になってくれたほうがいいなあ、小雨が降ったりする中での、視界も悪い、ビールも美味しくない、風邪を引く恐怖に苛まれる観戦なんて本当に嫌だなあ、なんてことも思ったりする。さあどうなりますことやら。