日曜松江父

 日曜日、家族で松江に行った。
 松江にはなにしろ、ニットはぎれのおもしろいのが売っているパンドラハウスがあるので、常日頃からチャンスがあれば行きたいと思って暮している。今回はそれを含めていろいろな目的がいい具合に集まったので、行くことに相成った。いざ行ってみれば、松江はまあ決して近くはないのだが、そこまでとんでもない遠出ということもなく、ほどほどの距離なのだった。思えば島根での暮しは、お店が立ち並ぶエリアというものが基本的に1ヶ所に凝縮されているため、買い物にそこまで移動時間を要さない。これはとても便利でありがたいことだが、岡山時代はそうではなかった。当時住んでいた場所は、岡山市と倉敷市に点在する市街の、どこにも出やすい立地だと、住んでいた当時は思っていたが、どこにも出やすいというのは、裏を返せばどこに行くにも一定の移動時間を要するということで、けっこう40分くらいザラに使って、大きい100均ならあっち、イオンならあっち、なんてことをしていた。その頃のことを思えば、今はすっかり体が鈍ってしまっているけれど、1時間かかるわけではない松江へも、そう身構えずに行けばいいのだと思った。
 家族で行くことにした目的の筆頭は、ポルガのスマホの契約である。われわれ夫婦が契約しているイオンモバイルが、松江イオンにしかないため、松江に出向く必要があった。なにぶん春から中学生なので、まあ現代の一般的な落しどころだろう、このタイミングで持たせることにしたのだった。この時期こういう層は多いだろうと思い、お店が混んでいるのではないかと危ぶんでいたが、幸いここは島根県のため、まったく問題なかった。番号札さえなかった。スマホ本体は、ネットで買ったほうが安いのかもしれなかったが、まあお店で買ったらいろいろ事がスムーズに運ぶだろうと思い、店で買うことにした。それでラインナップを見せてもらったら、僕がいま使っているものとまったく一緒の機種が、僕がネットで買ったときと同じ値段で販売されていたので、なんだか拍子抜けした。さらに言えば、これは望外の喜びだったのだが、店で本体を買って契約をした特典として、WAONを何千ポイントかくれるそうなので、なんだかとてもリーズナブルに契約をすることができた。新しくスマホを持ち、電話番号も得るということが、こんなに簡潔にできてしまうのか、と思った。って言うか中学生でいきなりスマホって、という思いも、どうしたってある。僕は高校生になったとき、やっとシティフォン(都会専用携帯電話)だった。まあそんなこと言い出したら、高校生が携帯電話を持つことがあり得なかった時代だってあるわけで、きりがないけれど。でもスマホということは、カメラも、音楽プレーヤーも、既に集約されているわけで、そうか、現代の子は我々が選択を悩まされたそれらのことには、一切煩わされないのだな、と思った。ちょうど読み返していた「おもひでぶぉろろぉぉん」で、当時使っていたPanasonicのSDプレーヤーの話をしていたので、それが余計に感慨深かった。
 契約後の待ち時間は、ポルガは本屋へ、ファルマンとピイガは施設内をブラブラ、僕は待ちに待ったパンドラハウスへと向かう。去年の7月以来の来店。もうそんなに経ったのか。それで収獲はどうだったかというと、まあちょっと期待を高め過ぎたかな、という感じだった。もっとも時期的に、起毛のような、厚めの生地が多かった。僕の目的はもちろんショーツ用の生地なので、それでは適さない。それでも何枚かは買った。本当はもっとわんさか買うつもりで、財布に多めにお金を入れてきていた。だから少し残念だ。また暖かい季節になったら買いに来ようと思う。
 スマホを受け取ったあとは、所用があったため松江駅にも少しだけ寄って、帰った。帰り道の途中で量販店に立ち寄り、食料品などもろもろ買い込む。この際にポルガのスマホ用のマイクロSDも買った。32ギガ。マイクロで、32ギガなどという。2005年当時のSDウォークマンで使用していたSDの容量が、512メガだった。いや、まあ本当に、これについて言い出したら、じゃあカセットテープしかなかった時代はどうなんだ、という話になるから意味がないのだけど、それにしても、うーむ。
 そしてこれに関連した話にもなるのだが、ちょっと久しぶりに小一時間ほどのドライブをしたことで、現状の車内音楽が非常によろしくないということが判明した(本当はだいぶ前から判明していたが、いよいよ耐えられなくなった)のだった。これまではパソコンにデータとして持っている音楽をSDにコピーして、それを車載オーディオに差し込んで流していたのだけど、ろくに増やさないので、心底飽き飽きしていた。それで僕は、ゲオに行くしかないなー、と思っていたのだけど、ファルマンが、「定額制の音楽聴き放題サービスに加入しよう。ポルガもスマホを持ったのだから、ファミリープランでお得だ」と言い出し、えっ、なにそれ、それって俺たちとは縁のない世界の話なんじゃないの、と半信半疑だったのだけど、帰宅して、ファルマンがサービスを選んで契約してくれ、使ってみたところ、僕の聴くようなポピュラーな音楽は例外なく聴けて、ダウンロードもし放題で、なんだこれ、と思った。これまで猜疑心から近付かずにいたけれど、なるほど世の中こういうことになっていたのか。CDとか、ゲオとか、もうすっかりそういう時代じゃないんだな。かつて、メインの1曲と、どうでもいいカップリング曲と、メインの曲のオリジナルカラオケの3つだけで1000円していたのに。今は月額1500円ほどでありとあらゆる曲を手に入れ放題だと。信じられない。
 子どもの、32ギガのマイクロSDを入れたスマホ、無限の夢があるような、逆に全然ないような。とにかく隔世の感があると思った。そんな日曜日の父親だった。